火を使わずに調理する「コンロキャンセル」が若い層を中心に進んでいるという。彼らはコンロの代わりに何を使ってどんな料理をつくっているのだろうか。生活史研究家の阿古真理さんが加速するコンロキャンセルの背景を取材した――。

表面はカリッと中はモチモチに焼けるトースター

酷暑が続くせいか、若い世代を中心にコンロを使わず調理する「コンロキャンセル」が流行している。何しろ今は、電子レンジはもちろんのこと、電気鍋やオーブンといった自動で加熱調理ができる家電がたくさんある。

ハンバーグ
写真提供=千石

そんな中、「焼く」、「煮る」、「蒸す」、「炊く」と、たいていの加熱調理ができるオーブントースターが売れている。それはアラジンの「グラファイト グリル&トースター」。2015年9月に約2万円で発売し、現在は調理メニューを搭載したフラッグシップモデルが3万円前後で売られる高級品にもかかわらず、2026年6月までの累計出荷台数は450万台に上っているのだ。このオーブントースターの魅力を探ることで、コンロキャンセル事情に迫ってみたい。

アラジンの「グラファイト グリル&トースター」フラッグシップモデル
写真提供=千石
アラジンの「グラファイト グリル&トースター」フラッグシップモデル

アラジンのオーブントースターは、特許技術の「グラファイトヒータ」のパワーでトーストは2分前後で表面はカリッと、中は水分が残ってモチモチに焼ける点が人気である。

もともとアラジンは、イギリスで1930年代初頭に石油ストーブの製造を始めた会社である。昭和世代は、縦長ボディでグリーンの石油ストーブを見た覚えがあるのではないか? 日本で輸入販売し始めたのは、1957年だった。2002年に暖房機器メーカーの千石が、日本でのアラジンブランド製品のOEM製造を始め、2005年から販売権も取得している。

テスト期間に焼いたパンは一万枚

2012年、千石は人工衛星の外装を覆う特殊フィルム、ポリイミドシートを特殊加工したグラファイトを使う「グラファイトヒータ」の特許技術を取得した。軽くて気温変化に強く、速く温まるヒーターの温度は、わずか0.2秒で発熱し、最大1300度まで上がる。

千石の商品戦略課課長、高橋弘真さんは、アラジンのオーブントースターの開発者である。「このヒーターを調理機器に転用すれば、画期的な製品ができるのではないか」と考え、トースターを開発した。

アラジンのオーブントースターとグリルパンを開発した高橋弘真さん。
写真提供=千石
アラジンのオーブントースターとグリルパンを開発した高橋弘真さん

しかし、強力な遠赤外線が出るヒーターでパンがムラなく焼けるようにするのは大変で、出力調整や距離、ヒーターの上に入れる反射板の角度などの調整に、約半年かかった。その間、6枚切りの食パンを1日10斤、合計1万枚焼いたという。

10万円超えの高級炊飯器が出た時期で、「おいしい料理のためならお金を出す層がいる」と千石は高級トースターの開発に着手している。とはいえ、高橋さんは「数千円が一般的なトースターに2万円も出すのはせいぜい年に1万人ぐらい」と見込んでいた。ふたを開けてみると、年間40~50万台も売れる大ヒット商品になった。