5万円の高級鮨で接待するより、5000円の回転寿司のほうが相手の心に残ることがある。同じ5000円でも「ケチだ」と言われる人と「センスがいい」と称賛される人は、何が違うのか。富裕層マーケティングを長らく手がけてきた西田理一郎さんは「接待の成功を左右するのは『高級店かどうか』ではない」と断言する。連載最終回で明かす、その真意とは――。
銀座の高級鮨をキャンセルし、向かった先は…
私の顧客に、都内で複数の事業を手掛ける経営者がいる。ある秋の夕暮れ、彼は海外から来日した重要クライアントのVIPをアテンドしていた。当初の予定では、銀座にある客単価5万円の完全おまかせの鮨店を予約していた。数カ月前から押さえていたプラチナシートであり、経営者自身も大将と懇意にしている、絶対に外さない「勝負店」だ。
しかし、当日の昼過ぎ、秘書から不吉な連絡が入った。「VIPの奥さまが、どうやら生魚がまったく食べられないらしい」というのだ。銀座の完全おまかせ店では、当日の急なメニュー変更は基本的に利かない。数日前から仕込みを終えている職人に対する無礼にあたるし、何より、極上の鮨が次々と供されるカウンターで、生魚が食べられない客が一人でもいれば、その夜の空気は完全に凍りつく。
彼は即座に銀座の予約をキャンセルし、大将には丁重におわびを入れた上で、ハイヤーの行き先を東京から離れた神奈川・小田原へと変更させた。向かった先は、一貫数百円の回転寿司だった。
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