大雨による土砂災害が増えている。その原因は気候変動だけなのだろうか。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「日本の林業政策にも問題がある。木材自給率向上のために効率化が進められ、山全体の木をすべて伐採する『皆伐』が行われている。こうしてできたハゲ山では、洪水や土砂災害が起きやすい」という――。
木材自給率向上と危険な「皆伐」
近年、大雨による土砂災害が増えている。その原因は気候変動だけとは限らない。なぜなら日本全国で山肌がむき出しになった「ハゲ山」が増えているからだ。
農林水産省は2009年に日本の林業を再生するとして「森林・林業再生プラン」を策定し、木材自給率50%以上を目指すとした。これを受けて林野庁は、林業の効率化を図り、林地にある木を全て伐採するという“皆伐”を推進してきた。
しかし、これは、自然や環境に悪影響を与えるため、ヨーロッパでは禁止されている方法である。
木は根を張ることによって、水や土を保持している。樹冠(木の葉が茂っている部分)が大きければ、雨水はいったん樹木に受け止められた後、一部は土壌表面をつたって流出するが、一部は土中に留まる。土壌中に浸透した水は、あるものは根から樹木に吸い上げられた後蒸散し、残った雨水も時間をかけながら地下水として流出する。これは水資源の涵養や洪水防止という機能である。また、水が一気に流れることがないため、土壌崩壊を防止する。
皆伐後植林しても数年間は樹冠が小さいので、雨は直接大地に降り注ぐ。植林しなければ、これがより長期間継続する。また、木が根を張る範囲はほぼ樹冠の大きさに等しいので、若い木のうちは土壌の保持能力は少ない。皆伐によって水や土は短期的に多く流出するので、洪水や土砂災害の被害が大きくなるのだ。
また、木を伐採してしまうと温室効果ガスの吸収や固定という能力も失われる。こうしたことを考慮してヨーロッパで行われているのは、部分的に伐採する“択伐”というやり方である。これだと、大きな木も残るので、国土保全などの機能を維持できる。