※本稿は、トッド・ローズ(著)、門脇弘典(訳)『なぜ皆が同じ間違いをおかすのか 「集団の思い込み」を打ち砕く技術』(NHK出版)の一部を再編集したものです。
20人死亡の墜落事故を招いた「模倣の罠」とは
2010年8月のある暑い日の午後、イギリス人パイロットと客室乗務員を含む21人を乗せた小型のターボプロップ双発旅客機が、コンゴ民主共和国の首都キンシャサの青い空に飛び立った。
折り返しのルートを飛行し、約260キロ離れたバンドゥンドゥに向かう。途中の飛行場に何カ所か寄ってから、最終目的地のバンドゥンドゥ空港の近くまで来たところで、客室乗務員が物音に気づいた。客室の後方で、かさかさと何かが動いている。
近くに行ってみると、そこにいたのは生きたクロコダイルだった。まるで笑っているような顔でこちらを見上げている。おびえた客室乗務員は、パイロットに知らせようとしたのか、コクピットに駆け込んだ。
その様子を見ていた1人の乗客は、ただごとではないと感じて席を立ち、乗務員を追った。ほかの乗客たちも同じ行動をとり、次々と前方に集まった結果、機体のバランスが崩れた。
パイロットの努力もむなしく、旅客機はとうとう空港から数キロの家屋に頭から突っ込んだ。この墜落事故で生き残ったのは、事故後に証言した1人の乗客(そして当のクロコダイル)だけだった。
「大勢の人が間違った行動をとるわけがない」という思い込み
悲劇にはちがいないが、どこかコメディ映画のようにも聞こえる話だ。乗客たちを突発的な「物まねゲーム」に駆りたてたものは、いったいなんだったのか。
その答えは、共通の行動は次から次に起こりやすいことと関係している。客室乗務員はクロコダイルにおびえてコクピットに走った。それに最初に気づいた乗客は、おびえるようなことが機体の後方で起こったと自然に推測して追いかけた。
では、それ以外の乗客は?
彼らは全員、前の人の行動をまねしたにすぎない。何が問題なのかわかっていなかったため、客室乗務員のあとを1人また1人と追いかけていくのを見て、残りの乗客は自分も同じことをしなければと感じた。
これほど大勢の人が間違った行動をとるわけがないという思い込みから、あわてて個人の判断を捨てて集団の権威に従ったのだ。