木材自給率向上は必要ない

そもそも、林野庁が主張する木材自給率向上も本当に必要なのか、前提を見直す必要もあるだろう。

木材自給率向上は伐採量を増やすことを目的としているので、将来利用可能な森林資源を減少させてしまう。林業の自給率向上論には、食料自給率向上のような意味はない。食料危機というケースはあっても、木材供給危機というケースは想定できないからである。

軍事的な紛争によってシーレーンが破壊され、食料や木材の輸入ができなくなることを考えよう。食料については毎日消費しなければならないので、食料危機は起きる。しかし、国民が住居に困ることはない。現在住んでいる住宅に住めばよいだけである。木材は毎日消費しなければ生命・身体を維持できない食料とは異なる。

さらに、農業の場合、生産量を増やせば、農地などの農業資源を維持することができ、翌年以降の供給力を確保することができる。

ところが、林業の場合、林地を伐採して木材供給を増やしても、苗木から成木になるまで長期間人工林の維持管理を行わなければ、将来の供給は保証できない。今年収穫した水田は来年も米を実らせる。しかし、今年伐採した林地は、来年どころか植林しても50年も待たなければ伐採できない。それどころか、伐採後の跡地ではほとんど再造林が行われていないのだから、自給率が低いほうが森林保護につながると考えるべきだろう。

血税がムダになる政策をいますぐ転換せよ

いま伐採されたまま放置されている森林に再造林を促すには、立木価格の上昇が必要である。

経済政策の基本からすれば、再造林が行われないという問題に直接対処することである。再造林を行うのは森林所有者である。伐採業者ではなく森林所有者の収益を直接増加させる政策に切り替えればよい。適切な政策は、伐採業者への補助をやめて、森林所有者に対し、間伐や択伐など適切な管理をすることを条件に林地面積あたりいくらという直接支払いを交付することである。この際、実際の育林や伐採などの管理は、森林所有者が組合員である森林組合に委託してもよい。

林の中を目視しながら歩く、測量機器などを携えた二人の職員
写真=iStock.com/tdub303
※写真はイメージです

これによって、森林所有者自身が林地を択伐するなど適切に管理しようという意欲を持つようになる。伐採業者に伐採を委託したり、立木を販売したりするのは、自身で管理できない林地(およびその立木)となる。こうして伐採業者に対する立木の供給が減少すれば、立木価格は上昇する。

5月に行われた花粉症対策関係閣僚会議の記者会見で、農林水産大臣は、花粉症対策について「当然、これには予算が必要ですが、林野庁の予算は、現在、約3000億円の予算ですから、これでは足りませんので、10年間の長期計画の(作成の際には)予算的な裏付けをどうしていくかということも大きな議論となります。こういったことも、今回の花粉症対策としてやっていこうと考えているところです」と発言している。

花粉症対策は、現状の誤った林業政策の予算増加に使われる。いま災害に苦しむ国民と日本の未来のために政策を大転換すべきである。

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