1997年、日経連(現在の経団連)は、「就職協定の廃止」を発表した。これを受け、就職活動における学歴主義は終わった、という報道もあった。健康社会学者の河合薫さんは「ところが、現実はそうではなかった。『学歴はもう関係ない』という言葉を信じて、キャリアを積み上げてきた40歳前後の人たちは、学歴差別に苦しんでいる」という――。

※本稿は、河合薫『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか 中年以降のキャリア論』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです。

悩んでいる会社員
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「学歴が関係ない社会になる」を信じて後悔

【証言1 大手薬品関連会社勤務のホシヤマさん(仮名)42歳】

「納得いかないのは『君たちが社会に出るときは、学歴が関係ない社会になる。誰にでもチャンスがある時代が来る』って、学生時代に言われ続けたことです。

私は運よく今の会社に入社できました。正社員です。同級生の中には私より優秀なのに内定が出なくて、ものすごく苦労してる人もいたので本当にラッキーでした。だから、余計に『学歴が関係ない社会になったのかも』と思えたんですよね。社内でも頑張れば認めてもらえるって思えたし、下が入ってこない状況もそんなに気にならなかった。腐らずに自分が頑張ればいいんだって。自分次第なんだから、と信じていました。

ところが、5つも下の後輩に追い越されてしまった。課長職です。うちの会社はもともとK大が強いんですけど、彼もK大です。K大以上じゃないと上にいけない、という現実を突きつけられショックでした。学歴社会は終わってなかった。私の出身大学の経営幹部はいません。

もう『夢』を追うには遅い年齢なのに、仕事のキャリアパスが見えないためか、『人生これでよかったのか』と後悔することが増えてしまいました」

就職氷河期を勇気づけた言葉に根拠はなかった

就職氷河期という厳しい時代の中でも、ホシヤマさんのように希望する企業に正社員として採用された人たちはいました。氷河期=希望した会社に入れない、氷河期=非正規雇用という等式が一般化されがちですが、就職はいわば結婚のようなもの。希望する会社と学生の相性が運よく合えば、勢いで結婚できてしまうのです。

一方で、就職が厳しい状況だっただけに、「今、我慢すれば、今乗り越えれば、いいことはある。だって時代は確実に変わっているのだから」と彼らを勇気づける言葉もあちこちで散見されました。それは苦しんでいる若者へのエールであり、絶望しないでほしいという年長者の思いやりであり、日本も今を乗り越えれば再び復活できる! という、バブルといういい時代を生きた人生の先輩たちの根拠なき楽観でもありました。