「人流の回復」がもたらす感染症のリスク
現在、訪日外国人旅行者が増えていて、街中でも大きなスーツケースを持った人たちをよく見かけます。今年3月時点で180万人、2023年末には2000万人程度になるのではないかという推計もあり、ものすごいスピードといえます。外国から日本に訪れる旅行者は2019年には1カ月で250万人でしたが、新型コロナウイルス感染症のパンデミック下の2020年5月にはわずか2000人でした。
観光地や飲食店などがインバウンドによって、緊急事態宣言の頃と比べ、回復したのは大変喜ばしいことです。また、ゴールデンウィークには、日本から海外に旅行する人も増え、日本人の国内旅行も回復してきています。しかし、感染症に着目すると、急激な「人流の回復」は好ましいことばかりではありません。
2類相当だった新型コロナウイルス感染症は、5類になって水際対策が行われなくなりました。ワクチン証明書や出国前検査の提出が求められません。もともと新型コロナウイルス感染症以外の感染症に関しては、そういった対策が講じられていませんから、海外から日本にいろいろな感染症が持ち込まれるリスクが高いのです。
世界的な人流の停止によってなりをひそめた感染症も、人流が再開したら、また広まってしまいます。実際、根絶目前だったポリオは再興し、アメリカ、イギリスなどでは不活化ポリオワクチンの追加接種の対策がとられているのです。
コロナ禍に低下した小児のワクチン接種率
そんななか、コロナ禍のせいで、子供が受けるべき定期接種ワクチンの接種率が世界的に下がって問題になっているのをご存じでしょうか? WHOによると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こった2021年には、1歳以下の2500万人が三種混合やMRワクチンといった基本的なワクチン接種を受けなかったとのことです(※1)。割合にすると、2021年の「世界の小児ワクチン接種率」は81%で、2019年は86%だったので、ずいぶん低下してしまったことになります。
新型コロナウイルスのパンデミックが起こるまで、予防接種を受ける子供の数は年を経るごとに向上していましたから、この数は2009年以来の少なさです。WHOはビル&メリンダ・ゲイツ財団などの非営利組織(NPO)や国連児童基金(ユニセフ)、途上国のワクチン普及を目指す国際組織「GAVIワクチンアライアンス」などの機関と協力し、新型コロナウイルスのパンデミックで低下した小児定期ワクチン接種率の向上に取り組む事業を始めました。
じつは、日本でも定期接種のワクチンの接種率は下がっています。BCGだけは一部の報道で、「新型コロナウイルス感染症の予防に効果があるかもしれない」と言われたため、神奈川県川崎市など、接種率が増加した地域もあったようです(※2)。しかし、すでに発表されているように東京都府中市や新潟県新潟市をはじめとして、全国的に定期ワクチンの接種率は下がっています。(※3、4)。
※1 WHO「Immunization coverage」
※2 日本小児科学会「新型コロナウイルス感染症流行時における小児への予防接種について」(2020年6月17日 )
※3 日本小児科学会「新型コロナウイルス感染症流行時における小児への予防接種について」(東京都府中市、2020年8月23日)
※4 日本小児科学会「新型コロナウイルス感染症流行時における小児への予防接種について」(新潟県、2020年9月16日)