ときどき「じつは母子手帳は不必要なもの」という説が流れてくる。しかし、小児科医の森戸やすみさんは「母子手帳は、成長や発達を見守るためにも、正確な診断や治療を行うためにも非常に重要なものです。もっと役立てていただけたら」という――。
母子手帳
写真=photoAC/東京狸
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子供の健康な成長に寄与している母子手帳

定期的に回ってくる子育てのデマに、「母子手帳はワナ」「母子手帳が間違った常識を押し付けている」「母子手帳はアメリカに押し付けられたもの」などとする説があるのをご存じでしょうか。妊娠中からの記録、成長曲線、ビタミンK2やワクチンの記録……何もかも不要だと主張する人もいますが、これは完全に間違いです。

母子手帳には子育てに必要な情報が詰まっていますし、掲載されている内容には科学的根拠があるものが多く、専門家によって改訂が重ねられています。しかも、母子手帳は日本で誕生しました。日本の乳幼児死亡率は世界で最も低く、健康に成長する子供が多いことはご存じの方が多いでしょう。お母さんのおなかの中にいる頃から連続した成長の記録があり、月齢・年齢ごとに発達を見る上で重要な情報がまとまっている母子手帳も、子供の健康な成長に寄与しているのは間違いありません。

もちろん、最初は「ビタミンKってなんだろう」「母子手帳に載っている成長曲線などの情報はなんのためにあるのだろう」「こんなにたくさんのワクチンを受ける必要があるのかな」と疑問に思う人がいても不思議ではないでしょう。子供の健康や将来に関わると思ったら何事でも慎重になって当然ですし、少しでも悪影響がありそうに思ったらやめたいと思うのも自然なこと。ただし、その判断のためには十分な情報が必要ですから、今回は母子手帳について詳しく書いていきたいと思います。

継続的な記録が正確な診断や治療に役立つ

母子手帳(正確には母子健康手帳)が生まれたのは、1948年のこと。それまで別々だった妊娠した女性用の「妊産婦手帳」と乳幼児用の「乳幼児体力手帳」がまとめられて1冊の「母子手帳」が誕生しました。基本となる部分は厚生労働省が様式を定めていますが、表紙やその他のページの内容は自治体ごとに違うこともあります。妊娠経過や子供の成長の記録ができるだけでなく、新生児のウンチの色がカラー写真で載っていたり、子供が誤嚥ごえんした際の対処法、心肺蘇生法などの情報も載っていて非常に便利です。

日本では、この母子手帳を胎児の心拍が確認される頃に子供一人につき1冊、市区町村の窓口でもらうことになっています。産婦人科医に妊娠経過を書いてもらったり、出生時に在胎週数や体重、どのようなことがあったかを書いてもらったりして、出生届を出すと市区町村が「出生届出済証明」の記載をしてハンコを押した紙を貼ったりしますね。

その後、一般にお子さんが小児科を受診する際には、母子手帳を見せてもらうことがよくあります。特に月齢や年齢が小さいお子さんにとって、妊娠中・出生時、乳児健診の経過は大事だからです。胎内にいたときや出生時に問題がなかったかどうか、出生後に行うタンデムマス・スクリーニング検査や聴覚検査の結果がどうだったのか、などの情報は、正確な診断や治療にも役立ちます。