1月末、岸田首相が参議院本会議で育休中のリスキリングを推奨したとされ、大炎上した。小児科医の森戸やすみさんは「女性の場合は妊娠経過が順調で出産にも大きな問題がなく、産後は体が順調に回復し、産後うつにもならず、たまたま我が子の健康・発達に問題がなく、周囲のサポートが得られる状況があって初めてリスキリングが可能になるでしょう」という――。
タブレットPCを操作する女性と幼児
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参議院本会議の答弁の流れはどうだったか

2023年1月27日の参議院本会議で、岸田文雄首相が代表質問に対して「育児中などさまざまな状況にあっても、主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押しします」とリスキリングを推奨した結果、「炎上」しました。「育休は休暇ではないんだから、学び直しをする時間なんかない」「現実の育児を知らないから、そんなことを言っているのだ」という意見があふれ、それがニュースにもなったのです。

最近よく見かけるようになった、この「リスキリング」という言葉ですが、2022年10月に岸田首相が所信表明演説で「リスキリングに5年間で総額1兆円を投じる」と話したときには、あまり話題になりませんでした。SNSでは「リスをどうにかするのかと思った」という投稿を見かけましたが、「リ」は再び、「スキル」は技術という意味なので、再び技術を磨くという意味です。

1月27日の参議院本会議の答弁をきちんと確認すると、代表質問で自民党の大家敏志参議院議員が「この間(産休・育休中)にリスキリングによって、一定のスキルを身に付けたり、学位を取ったりする方々を支援できれば、子育てしながらもキャリアの停滞を最小限にしたり、逆にキャリアアップが可能になることも考えられる」ので「大胆なこども政策を検討する中で、たとえば、リスキリングと産休・育休を結び付けて、支援を行う企業に対して、国が支援を行うなど」はどうかと総理の考えを聞きました。その返答として、総理が冒頭の発言をした結果、炎上したのです。

自分で子育てをしたとは思えない年配政治家

これだけを見ると、どちらかというとおかしいのは「大胆なこども政策」と「産休・育休中のリスキリング」を結び付けた大家参議院議員で、総理の回答は子育て中でも、子育て中でなくても「誰もがリスキリングできるよう支援する」という主旨でしょうから、妥当ではないかと思いました。

ただ、その後、1月30日に岸田首相は「私自身も3人の子どもの親。子育てが経済的、時間的、精神的に大変だということを目の当たりにしたし、経験もした。発言で申し上げたのは、ライフステージのあらゆる場面で学び直しに取り組もうとするとき、本人が希望した場合に後押しできる環境整備を強化するのが大事だという趣旨で申し上げた」と釈明。しかし、実際には総理は東京にいることが多く、夫人が地元で子育てされたそうで、さらに批判が加熱。火に油を注ぐ結果になりました。多くの男性議員は、政策や発言を見ても、子育て経験があるようには思えません。

首相に対して「3人のお子さんの育児をしたとおっしゃいますが、単身赴任から帰ったときだけ手伝うのは育児ではないでしょう。一人で育児に追われる女性も少なくないんですよ」と伝えたくなる気持ちはわかります。育児の負担は、まだ女性に偏っていることが多いのです。