頭蓋内出血を防ぐために必要なK2シロップ

母子手帳には、その後も乳児健診や発達の様子、ワクチン接種歴などの記録をしていきますが、ビタミンK2シロップの投与についても記録されることがあります。日本では赤ちゃんが生まれて数回哺乳できたのを確認したら、ビタミンK不足による出血を防止するためにビタミンK2シロップを飲ませます。ビタミンKは妊娠中の女性がたくさん摂っても赤ちゃんに移行する量はわずかで、母乳中に含まれるビタミンKも十分な量ではないからです。

このK2シロップについても「不必要なもの」「製薬会社がもうけるためのもの」というデマがありますが、ビタミンK欠乏症は新生児300人に1人の割合で起こると推計され、生後3カ月までのビタミンK欠乏症の8割で頭蓋内出血を起こします。だから、予防のためのK2シロップ投与は大切なのです。また、ケイツー(ビタミンK2シロップの商品名)1回分の薬価は25.3円。これを3回なら76円、11回で279円です。薬価はきわめて安く、赤ちゃんの生命の重さに比べてタダ同然だと思います。

「ビタミンKに添加物を入れるのが許せない」と言う人もいますが、ケイツーの添付文書を見ると、ビタミンKの安定と保存のために必要な成分が含まれていて、もちろん安全性が確かめられています。1回に飲ませる量は2mg(1ml)ですから、添加物の量も極微量です。この「わずかな量の添加物のリスク」と「ビタミンK欠乏症が起こす重大な疾患あるいは死亡のリスク」では比較にもならないでしょう。

病院のベッドで寝ている新生児
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成長や発達に不安があるときにも有用

こうした記録だけでなく、子育てで心配なことがあったときに役立つのが母子手帳です。我が子の成長や発達のペースが順調なのかという心配は、多くの人が持つと思います。体の大きくなり方である「成長」、できることが変化し増えていく「発達」を見る上で重要な月齢・年齢にはページが設けられています。乳幼児健診を受けていると、左側のページにある質問にどのくらい「はい」と答えられるか、右側のページで身長・体重・頭囲がどのくらい育ったかがわかりますね。ここを確認すれば、小児科を受診しなくても安心できる場合が多いでしょう。

少し前にSNSで、成長曲線は母子手帳に必要ないのではないか、役所が子供の優劣をつけているのではないかというコラムが話題になりました。多くの小児科医ばかりかお母さん・お父さんが一斉にSNSに否定的な投稿をしたように、もちろんそんなことはありません。母子手帳には成長曲線が必要です。もしもなかったら正常範囲かどうかを確かめるために、日本小児内分泌学会や厚労省が出している成長曲線のグラフを探さなければいけませんが、子育てで忙しいなか探すのは大変でしょう。

もしも病気などの問題があって成長が遅すぎる・早すぎるのに気づけなかったら、子供の将来の健康を損ないかねません。気づくのは早ければ早いほどよく、そのほうが改善するための選択肢も多いでしょう。