広島県尾道市が配っていた「先輩パパからあなたへ」という文書が、性別役割を強化するものだとして批判を浴びた。小児科医の森戸やすみさんは「国も自治体も、ジェンダーに関してもっとアップデートすべきだ」という――。

広島県と同様に尾道市も育児で「炎上」

先日、広島県尾道市が配っていた「先輩パパからあなたへ」という文書がSNSのX(旧Twitter)で話題となり、批判が集まりました。この文書は、2017年に尾道市が保健センターなどで行われた3~4カ月健診時に父親100人にアンケートを取ってまとめ、2018年から妊娠7カ月の女性に送付していたものです。

そこには「妻に言われてうれしかった言葉」「妻のこういう態度(言葉)が嫌だった」「妻にしてもらってうれしかったこと」「妻にしてもらいたいこと」が書かれています。最初に思ったのは、妻も夫も同じ親なのに「妻は育てる人で、夫はその補助役」であり、何かを頼むときには気分を害さないようにお願いすべき……という無言の圧力を感じるということです。

これは以前、広島県が配布していたことがわかって炎上した「働く女性応援よくばりハンドブック」という冊子に似ています。この冊子では「ワーキングママの心構え 同僚・周囲への感謝と配慮を忘れずに!」というページで、働く母が気配りすべき相手として同僚、上司、パパ、祖父母が挙げられていて、やはり「母親が子育てをするべき」という無意識の偏見と思い込みを助長する内容だと批判が集まりました。なお、2022年9月には「よくばり」という言葉がタイトルからは削除され、働く母にだけ周囲への気配りや父親への感謝を推奨するような記載はなくなっています(※1)

※1 中国新聞デジタル「タイトルの『よくばり』削除、働く女性応援冊子 批判受け広島県

尾道市が配布していた「先輩パパからあなたへ」
尾道市が配布していた「先輩パパからあなたへ」

男性は理論的で女性は感情的という偏見

ただ、このアンケートには、じつは逆バージョンもありました。「尾道市の先輩ママ約100人の産前産後のママの気持ち」という文書では、夫婦共に頑張って子育てをしている様子がわかったり、一方で家族が増えても自分だけこれまでと同じように生活している夫が、妻をいら立たせている様子がわかったりします。こちらは産前産後はどうしても女性のほうが負担もリスクも大きく、それを軽減するために男性ができることを伝えることができるので役立つのではないかと思いました。

それでも、この母親向けアンケートと父親向けアンケートには、共通して重大な問題点があります。それは「男女で感じ方や考え方に違いがあります」という見出しをつけ、男女の気持ちがすれ違う理由のひとつとして、「男女の脳の構造上の違いがあげられており、男性は理論、女性は感情に基づいて行動するという違いがあることが分かっています」と書かれている点です。これには医学的な根拠があるでしょうか。

尾道市の担当者はメディアの取材に対して「当時の資料が残ってはいないものの、さまざまな資料を確認して、職員が作成したと聞いています」と話しています(※2)。尾道市では「脳科学者」と称される講師を招聘しょうへいして複数の講演会を開催していたので、その資料をもとに書かれたのかもしれません。でも、これは根拠のない説です。

※2 スマートフラッシュ「尾道市『育児アドバイス』が批判受け配布中止『妻がわけもなくイライラ』『家事してくれない』…市の担当者に作成経緯を聞いた

尾道市が配布していた「パパになるあなたへ」
尾道市が配布していた「パパになるあなたへ」