母親だけに子育てを押し付けてはいけない

2018年に愛知県豊田市で、あまりにも痛ましい事件が起きたのを覚えているでしょうか。ワンオペで三つ子を育てていた母親がうつ病になってしまい、生後11カ月の子どもたちのうちの1人を暴行によって死なせてしまいました。

ニュースを知った多くの人たちが、この母親の過酷な状況を知り、さらに執行猶予のない実刑判決が出たことにショックを受けました。赤ちゃん1人を育てる場合でさえ、ワンオペでは精神的にも身体的にも追い詰められてつらくなる場合が多々あるのに、同時に3人も孤立無援で育てるのはどれだけつらかっただろうかと思います。この事件においては母親の減刑を求めて1万2000人以上の署名が集まりました。物理的にも精神的にも孤立した状態で、母親だけに子育てをさせてはいけません。

母子健康手帳支援サイトは、自ら前段に記載した「お父さんとお母さんがよく話し、二人が主体的に育てていくという意識を持つことが大切です」という姿勢に一貫性を持たせてほしかったです。前述の削除をしたせいで「夫婦二人で育児をする」という部分が減り、ますます後退した印象を持ちました。広島県や尾道市よりはずっとジェンダー平等に近いですが、国の機関であるこども家庭庁にさえ、まだまだ改善の余地があります。

赤ちゃんの前で泣く母親
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです

国や自治体が性別役割を強化しないように

1999年に男女雇用機会均等法が改正され、徐々にジェンダー平等の考えが広まり、今や若い年齢層では共働き世帯が専業主婦世帯の倍以上となりました。「イクメン」「ワーキングママ」という言葉は、すでに古いと言われています。育児をする父、仕事をする母は、今やめずらしくありません。当たり前なのです。

ところが、以前も書きましたが、まだ日本の男性の子育て・家事の時間は非常に短いのが実情です。欧米の先進国と比較すると、日本は妻の家事・育児関連時間が週に7時間34分と突出して長く、反対に夫の時間は週に1時間23分とあまりに短く、約6倍も違います。欧米でも女性のほうが子育て・家事の時間が長いとはいえども3倍は超えません。

その上、地方では「男は仕事、女は子育て」といった価値観が色濃く残っているところが多々あります。例えば、富山県では20~24歳の女性の流出が特に多いことがニュースになりました(※6)。若い女性の働きにくさが原因のようです。女性が働くのが困難な環境は、誰にとっても過酷です。「女性には責任のある仕事を任せない」「男性だから長時間労働をしてもらう」といった性別役割にとらわれた価値観のままでは、女性だけでなく多くの人が職場や地域から立ち去るでしょう。これは早急に改善しなくてはいけないことです。

それなのに日本の国や自治体が公開・配布するものには、まだ性別役割を強調するようなものがあり、時代についていけていません。ジェンダーギャップ指数は毎年発表され、日本は報道されるたびによくなるどころか第1回の80位が最高でした。徐々に順位を落として、2023年は過去最低の125位です。日本国内だけで考えればジェンダー平等は100年前よりはよくなっていますが、世界からは遅れています。もっと早くアップデートしていくべきだと強く思います。

※6 読売新聞「若い女性の県外流出著しい富山、『男性の結婚相手見つからない』…官民で現状打破へ

【関連記事】
「お金持ちだからではない」頭のいい子が育つ家庭に共通する"幼児期のある習慣"
中2で「初めてのセックスはどんな状況か」を考えさせる…日本と全然違うカナダの性教育
11月生まれは0歳児クラスにも1歳児クラスにも入れない…「保活はいつ妊娠するかで決まる」という理不尽
「ダンナの教育が一番ムズかしい」最大のストレス源・育児の当事者感覚がない父親には期待するだけムダなのか
保健体育で習ったことと全然違う…不妊治療の専門医が教える「排卵するたった1つの卵子はどう選ばれるか」