※本稿は、浅田義正、河合蘭『不妊治療を考えたら読む本〈最新版〉』(講談社ブルーバックス)の一部を再編集したものです。
700万個あった卵子は初潮を迎える頃には30万個に
卵子の一生を追ってみましょう。
人の身体では、まだ胎児とも呼べない発生(受精)から約2週間後の時点で、早くも、卵子、精子のもとになる始原生殖細胞が作られます。
その後、始原生殖細胞は、その子が女の子であれば卵子のもとになる細胞に分化していき、卵巣のもとになる性腺へ移動します。しかしその子が男の子であれば、男の子だけが持つY染色体にのっている遺伝子が発現して、始原生殖細胞を精子のもとになる細胞に分化させます。
女の子の胎児では、卵巣ができると、その表面にある皮質と呼ばれる部分で、卵子を作る細胞である卵祖細胞が現れます。これが盛んに細胞分裂を繰り返して、卵子の初期の姿である卵母細胞がたくさん作られます。その数はピーク時には700万個にものぼると言われています。この生まれたての卵子は、できたそばから、前述の卵胞という卵子を育てる袋に包まれて原始卵胞と呼ばれる状態になります。
しかし妊娠4カ月くらいになると、胎児の卵巣で卵母細胞を作り続けてきた卵祖細胞は、姿を消してしまいます。ですから、卵子は新しく作ることができないのです。
さらに卵子は、作られたと思ったら、すぐに大変な勢いで消え始めます。妊娠初期の胎児期に700万個も作られた卵子は、生まれる頃には100万~200万個程度になっています。そして思春期となり、初潮を迎える頃には卵子の数が30万個程度になっています(図表1)。
毎日30個の卵子が消えていく
女性は、これらの卵子を携えて生殖可能な時期を迎えるのですが、その後もさらに、若い女性ならば毎日30個ほどのペースで卵子を失っていきます。そして、卵巣の中の卵子の残り個数が1000個くらいになると、月経周期が成立しなくなり、閉経となります。卵胞の中でホルモンを作っている顆粒膜細胞なども卵子と一緒になくなるので、ホルモンの波によって成り立っている月経周期が巡らなくなるのです。
このように卵子というものは、ほとんどが消えてしまう運命にあります。ですから、子どもになれる卵子はもちろんのこと、毎月1個排卵している卵子でさえ、きわめて幸運な例といえます。一生の間に女性が排卵する卵子はトータルで400~500個といわれますが、これは体内で作られた卵子700万個から見れば、1万個に1個より低い確率です。
それでも自然の仕組みはよくできていて、妊娠のチャンスというものは、本来、けっこうたくさんあるのです。ただ現代女性は、その多くを見送ってしまっているだけです。