「里帰り出産」は良い選択肢なのか。産業医で産婦人科医の平野翔大さんは「高度経済成長期に生まれた出産慣習で、日本に特異なものと見られている。育児の最初、試行錯誤を重ねる段階を、父親不在で進めることには大きなデメリットがある」という――。

本稿は、平野翔大『ポストイクメンの男性育児 妊娠初期から始まる育業のススメ』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

アジア人(日本人)の新生児を抱いた母親(生後0カ月)
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「父親に育児をされていない世代」が今の父親たち

これから父親になる世代を20代~30代と仮定すると、おおよそ1980~90年代生まれが該当する。1980年代生まれは、高度経済成長時に確立した「勤労男性+専業主婦」に育てられた世代であり、まさに父親が最も育児から引き離されていた時代と言える。1990年代生まれ(筆者も該当する)は幼少期(2000年頃)に本書で先述した「父親へのネガキャン」が行われたものの、この時代の男性育休取得率は0.5%すら超えなかった。やはりこの世代の父親も、育児への関与は少なかったと言える。男性育休が普及し始めたのを早くても2006年頃と捉えるのであれば、それ以降に生まれた世代が親になるのはもう少し後の話になる。

つまりこの世代は、「自身が父親に育児をされた」と感じる父親はまだまだ少数な中、「自分たちは育児をする」ことを求められている。しかも以前のような「専業主婦の妻と育児をする」のではなく、「共働きで育児をする」ことが求められており、方法論のみならず、使える時間や環境についても大きく変わっている。「世代間でのパラダイムシフト」、それが現代に生じている大きな問題なのである。

男性育児の「ロールモデル」がいない

自らの父親が育児のロールモデルにならない中、現存する「男性育児」のロールモデルは上の世代、つまり「イクメン世代」になる。もちろん男性育児の形は少しずつできてきていると思うが、本書の第2章で指摘しているように、これを一般化するのは困難である。結局、「お父さんとしてどのように育児をするか」の参考になるものは今でも不十分なのだ。むしろ2000年代半ばからの「イクメン」の流れから男性育児・育休の問題は続いていると考えるほうが妥当であり、この世代には自ら男性育児のあり方を探していくことが求められているのだ。

更にもう1つ、「経験」という意味で重要な流れがある。「出生率の低下」と「家族構成の変化」だ。

1980年の合計特殊出生率は1.75、1990年は1.54だ。その親世代である1950年は3.65、1970年は2.13であることに比べれば、かなり低い値と言える。つまり今の親世代は1人っ子、ないし2人兄弟姉妹が多いということだ。

女性の平均初産年齢についても、1950年は24.4歳、1970年は25.6歳、1980年は26.4歳、1990年になると27.0歳まで上昇している。女性の妊娠可能年齢には大きな変化が生じていないとすれば、長子と末子の年齢差も年々縮んでいることが推測される。