赤ちゃんに触れたことのない親が増えている
つまり、兄弟が減り、年齢差が縮まれば、自らが新生児・幼児に触れたという経験も減る。更には親世代の兄弟が減ると、親族の子どもに触れる機会も減少する。結果として、身近で小さな子どもに接することができる機会が今の親世代には乏しくなっている。昔で言えば先程述べたように「共同養育」が社会のシステムであり、家族単位を超えて小さな子どもと接する機会は多かったと考えられるが、このような機会も地域資源の減少に伴い減少した。
つまり「新生児や乳児を見たことも、触ったこともない」という親が増えているのである。特にこれは男性に顕著だ。女性のほうが友人の出産後などに会う、といった関係性を築きやすく、男性はこのような機会も乏しい。女性が育児の主体である中で、男性が友人男性の子どもに会おうと思えば、友人の男性とその妻双方の手間を取ることになる。女性が友人女性の子どもに会うのであれば、女性単独で会うことが可能だ。もちろん、男性自身が単独で育児をするようになればこの状況は変わっていくと考えられるが、現時点では男性が赤ちゃんに触れる機会は乏しいと言わざるを得ないだろう。
「夫の『赤ちゃん』のイメージが2~3歳の子だった」
このような傾向はデータだけでなく、産婦人科医として実感もしている。
以前勤務していた病院では、妊婦の退院時に「お見送り」をすることがあった。退院時に父親が迎えにくることも多く、せっかくなのでその場で抱っこしてもらうのだが、多くの父親がおっかなびっくりという感じだ。初めて本当の「赤ちゃん」を見て、触れているのだろうと思われる。実際に何人かに「赤ちゃんを見たり触ったりするのは初めてですか?」と聞いてみたのだが、ほとんどが「初めて赤ちゃんを見た」と言っていた。
またある母親が育児の最初を振り返り、「夫と育児の話が噛み合わないと思ったら、夫の『赤ちゃん』のイメージが、2~3歳の子をイメージしていたことに気付いた」と語ったのもこれを裏付ける。新生児~1歳の赤ちゃんはあまり外出しないため、町中で見ることも少ない。「小さい子ども」として見る機会が多いのは2~3歳以降の年代であり、その父親はここから「小さい子ども」のイメージを得ていたのだろうと考えられる。
このように、現代の社会構造の変化は、知識面でも経験面でも父親を育児から引き離してしまった。しかし、これに拍車をかけるような出産システムが日本には存在する。それが「里帰り出産」だ。