卵子の成熟には2つの段階がある

ある卵子が消えずに成熟していく場合、その過程は2つの段階にわけて考えることができます。第1段階は、脳からのホルモンとは無関係に、卵母細胞が自発的に目覚め、成熟していく段階です。この時期に卵胞は1次卵胞まで成長しますが、あまりにも小さいので、医師が診察で観察することはできません。

その次の段階は、卵胞の中に腔が生じて、そこに卵胞液と呼ばれる液体が溜まってくる2次卵胞の段階です。

目覚めてから3~4カ月間生き残ってきた卵胞は、排卵可能な周期の前々月には、成熟してこの段階に到達して脳からのホルモンに支配されるようになってきます。このあと、卵胞がさらに成長して数mmになってくると、医師は、超音波検査で卵胞を観察することができます。

排卵するたった1つの卵子はどのように選ばれるか

2次卵胞は、脳から分泌されるFSH(卵胞刺激ホルモン)に影響されるようになりますから、成長の度合いが一気に加速していきます。その様子も先ほどの図表3を見るとよくわかります。

しかし、ヒトの自然な妊娠では、排卵していく卵子は基本的にたった1個――他の卵子は卵胞もろともしぼんでしまうのです。FSHがたくさん分泌され卵胞たちが育ち始めると、ある時点でいちばん大きくなっている卵胞が、排卵に向かって進めるたった1個の卵胞に決定されます。英語ではこの現象は「dominance(優越)」と呼ぶのですが、本書ではセレクションと言うことにします。選ばれたものは優勢卵胞、主席卵胞などと呼ばれますが、ここでは主卵胞とします。このセレクションのために、人間は1回で妊娠する子どもの数が原則的に1人となります。

ただ、このセレクションは、卵子の質をしっかり見極めて1個の卵胞が選ばれているわけではなく、偶然性が働いています。そのときの卵胞の大きさ(成熟の程度)で決まると考えられているのです。

これまでお話ししてきた卵子が目覚めて排卵に至るまでの過程をイメージに表すと、図表5のようになります。

【図表】排卵する卵子が決まるまで(イメージ)
※『不妊治療を考えたら読む本最新版〉』(講談社ブルーバックス)より