東京都が男性のHPVワクチン接種への助成を検討しているという。小児科医の森戸やすみさんは「HPVワクチンは、さまざまな病気を防ぐことができる有用なワクチン。男女ともに助成が受けられ、接種率が上がることが望ましい」という――。
ヒトパピローマウイルスのワクチン
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東京都が男性の接種への助成を検討中

先日、東京都が男性のHPVワクチン接種費用の助成を検討しているというニュースが流れました。これが実現すれば、都道府県では初の試みになります。

でも、じつは一部の市区町村は、すでに男性のHPVワクチン接種に対して助成を行っています。例えば、東京都中野区は、今年8月から男性(小6〜高1)への全額助成を始めました。他にも北海道余市町・新庄津村、青森県平川市、山形県南陽市、埼玉県熊谷市、群馬県桐生市、千葉県いすみ市の7都道県の8市区町村が実施しており、国としても助成を検討しているとのことです。

HPVワクチンは、2013年から女性のみを対象に公費で全額がカバーされる「定期予防接種」になりました。性的に活発になる前の11〜16歳女性が対象で、標準的には13歳になる年度から予診票やお知らせの書類が届きます。

他の先進国では男女ともに定期接種になっている国もありますが、日本で男性が受けるには自費で1回1.5万〜4万円前後かかります。2〜3回接種する必要がありますから、高額ですね。だからこそ、男性への費用助成はとても喜ばしいことです。

肛門がん・中咽頭がんの原因にもなる

そもそもHPVワクチンの「HPV」とは何でしょうか? HPVというのは「ヒトパピローマウイルス」の略称です。ヒトパピローマウイルスは、麻疹ウイルスや新型コロナウイルスなど見つかるだけで大変なウイルスとは違い、ありふれたウイルスです。気道に感染するウイルスとは違って、熱が出たり咳や鼻水が出たりもしません。自然に排除される、つまり体にとどまらず悪さをしないことも多いウイルスです。しかし、一部は持続的に感染し、体内で細胞を変化させて「子宮頚がん」などの病気の原因となります。

子宮頸がんは、子宮の入り口あたりにできるがんです。子宮がんの7割が子宮頚がんで、好発年齢である30代後半の女性には若い母親も多いことから「マザーキラー」とも呼ばれます。HPVに感染した人の10%の子宮頚部の細胞が変化し(異形成)、さらにその一部は子宮頸がんになります。日本では年間1万人が子宮頚がんを発症し、そのうち3000人が亡くなっているのです。「検診をすればワクチンはいらない」と言う人がいますが、検診では感染を防ぐことはできません。

そのほかHPVは、男性・女性ともに「肛門がん」「中咽頭がん」、キノコのような無数の突起ができ続けてしまう「尖圭せんけいコンジローマ」の原因になることも。HPVは粘膜の接触でうつるため、HPVに感染した状態で経膣分娩を行えば、お母さんの産道で赤ちゃんも感染する危険性があり、何度切除しても喉に腫瘍ができ続ける「若年性再発性呼吸器乳頭腫症」という病気になり、気道が塞がったり、ときに亡くなったりすることもあります。意外と恐ろしいウイルスですよね。