腎原発ユーイング肉腫の化学療法のため高校進学が1年遅れた
「AYA世代」(Adolescent&Young Adult)と呼ばれる15歳以上、40歳未満の思春期から若年成年のがん患者(治療終了後のがん患者、AYA世代にいる小児がん経験者も含む)に対する医療と支援が叫ばれている。この世代では、毎年約2万人ががんと診断されており、進学、就職、結婚、出産など、ライフステージの中でもひときわ変化が多い時期だ。しかし中高年のがん患者に比べて、患者のリビング・ニーズが異なるために、支援が遅れているのが実情だ。
14歳で腎原発ユーイング肉腫を発症し、1カ月の入院で切除できたものの、1年間の化学療法の治療を行うため、高校進学が1年遅れた、山本紀子さん(仮名、28歳)の後編をお送りする。
クラスメートと一緒に女子高生になりたかった山本さんだが、そこは「治療を優先させる」ことを自ら決めて1年間の化学療法の入院生活を始めた。
「これまで家庭で暴力を振るっていた父が許せなくなった」
「両親も私の考えを尊重してくれました。ところがその化学療法が辛かったのです。抗がん剤は骨髄にダメージを与えて、免疫が低下します。低下している時は空気中のウイルスが感染しやすく、すぐに熱が出た。そして気分の悪さも並大抵ではなく、いつになったら治るのだろうと、布団をかぶって耐えていました。その時は、誰にも話かけられたくなかった。
そんなときに限って父親が話しかけてくるので、『もう帰ってよ』と怒鳴ってしまい――。
それまでもずっと父は母に暴言を吐き暴力をふるっていた、いちばんの権力者。母と私も含めてきょうだいは、怯えて同じ屋根の下で暮らしているという感じでした。ですから病気の治療についても、父が書籍で得た知識で医師に質問する姿が目立ち、最終決定は私自身が白と言われても、圧力を感じて本音が言いづらかった。そういうこともあり、爆発しちゃったんです」
AYA研(AYAがんの医療と支援のあり方研究会)の清水千佳子理事長は、次のように言う。
「実際にがんにかかったことで、夢と希望を打ち砕かれた自分と、元気な家族や友人たちのいる世界とのあいだに、多くの患者がギャップを感じます。またせっかく築いてきたキャリアをがんによって崩され、未来に絶望する方もいます。
しかし、がんは治療によってコントロールできる病気になりつつあります。がんの治療を進めていくためには、孤独や絶望を感じている患者の気持ちに寄り添い、患者が積極的に治療に取り組めるよう応援することが大切です。がんの診断や治療は本人にとって楽なものではありませんが、病名や治療、治療後の見通しもきちんと説明し、患者自身が自分事として治療に参加し、がん治療後の人生を構築していけるように支えていくことが必要です」