世界最強のバレーボールチームをサポートする老婆から得たヒント

私がこの答えにたどりついたきっかけは30年前のある出来事までさかのぼります。

当時の私は、実業団女子バレーボールチーム「久光製薬(現・久光スプリングス)」のコーチを務めていました。

バレーボールチーム
写真=iStock.com/skynesher
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あるとき、日本で国際大会が開かれることになり、当時「女子世界最強」の座にあったキューバの滞在のサポートを私たちが受け持つことになりました。

私は興味津々でした。ミレヤ・ルイス、レグラ・トレスらを中心に、おそろしいほどの体のしなやかさで世界を席巻していた選手たちの秘密が知れるのではないかと思ったからです。

ですが、練習を見に行った時に私は不思議な光景に出合います。

選手やコーチのなかに、年齢は80歳くらいで、杖をついて歩く女性がひとりまじっていたからです。とてもコーチには見えません。ただただ場違いな雰囲気を醸し出している「おばあさん」でした。

朝礼台から下りる前の姿勢をチェックしていた理由

そんな彼女がチーム関係者に「朝礼台を用意してもらえますか」という要求をしました。

高さにして、50、60センチくらいでしょうか。何をするのかと思って見ていると、選手たちがひとりずつ朝礼台の上に立ち、そこから「ピョン」という感じで床に下りていきます。

その様子を見て、おばあさんが声を出します。「OK」、または「NO」と。「NO」と言われた選手は、「OK」が出るまで、何度も何度も台から下りるように命じられていました。

これはいったいなんなのだろうか。

当時の私はまだ気づくことができませんでしたが、動作解析の研究を続けてきた結果、謎を解くことができました。

80歳のおばあさんは、朝礼台から下りる前の姿勢をチェックしていたのです。もっと詳しく言えば「浮遊ろっ骨が閉じた姿勢」になっているかどうかを見ていたのです。

浮遊ろっ骨を閉じれば体は柔軟性を取り戻す

「浮遊ろっ骨」とは、あまり聞き慣れない言葉かもしれません。ろっ骨は12本あります。そのなかでいちばん下にある「第12ろっ骨」と呼ばれる小さな骨が、浮遊ろっ骨です。後方は背骨に関節でつながっていますが、前方は遊離しているため「浮遊ろっ骨」と呼ばれています。

とても小さな骨ですが、体を動かす上で重要な役割を果たします。前屈、後屈、側屈、回旋といったストレッチの基本となるような動作の起点となるのが、じつはこの小さな骨なのです。