自分の人生を本にしたい。仕事で培ったノウハウを世に伝えたい……。だが、そんなに甘くない!エッセイの達人が、人気ブロガー、さらにはプロ作家になるための4つの心得を開陳する。
キーワードはピンホールカメラ。視点は小さく!
「私は米軍に雇われて死体を洗う仕事をしていた」「私は首相の元秘書で大スキャンダルをつかんでいる」……。もしあなたがそういう人物ならすぐにでも本が出せるだろう。多少文章がへたでも無名でも、出版社はとびついてくるはず。しかし、そんな大ネタのある人はまずいない。ではどうしたらいいか。そこが出発点になるはずなのに、長年文章講座をやってきた私にいわせると、アマ文筆家の皆さんの大半はこの基本がわかっていない。
間違いのその1は、名づけて「なりきり評論家」だろうか。ただ新聞雑誌をよく読んでいるだけで、その方面の専門家でもなんでもない人が、「参院選後の日本経済」を占ったり「岡田ジャパンと心の教育」を説いてみせたりする。ご本人はすっかりいい気分なのだが、これは噴飯もの。読んでみると、ネタ元は昨日の「日経」だったり先月の「PHP」だったりで、すべて受け売りなのである。
間違いのその2は、名づけて「何様のつもり」。現役を退いた人が、「私の歩んだ道」を書いて世に問うてみたくなる。その気持ちはわかるが、もしあなたが元首相でも元プロ野球監督でもないのならやめておくべきだろう。世間が経理マン35年のあなたの人生に興味を持つかどうか。
しかも、書き上げた自分史というのを読ませてもらうと、話の山場が「母の死」だったりする。しかし、ご本人には悪いが、親の死なんて人間なら誰もが等しく体験すること。無名の他人の悲しみに共感してくれる人などいるはずもない。
少なくともプロの物書きはこういう間違いはしない。厳しい市場のなかでものを書いてきた彼らは、文章とは「書き手が書きたいことを書くのではなく、読み手が読みたいことを書く」ものだという鉄則を骨身にしみて知っている。
では、アマ文筆家が「読み手が読みたいことを書く」にはどうしたらいいか。私のおすすめは「ピンホールカメラ」方式である。ピンホールカメラは、レンズ代わりの針の穴を小さくすればするほど、ピントがシャープになって鮮明な写真が得られる。文章にも同じことがいえる。まずは下の文章を見てみよう。
ワールドカップでの日本の躍進は、想定外だった。直前まで連敗続きだったチームが、決勝トーナメントまで勝ち進み、ベスト16という成績を残したのである。
高校生までサッカー部に所属していた私から言わせれば、今大会のMVPは間違いなく本田圭佑だ。彼のフリーキックは世界レベルである。ポスト中田英寿として、世界に羽ばたくことは間違いない。
いかがだろう。これが高名なスポーツライターの弁なら納得できる。だがアマ文筆家だったらどうか。「聞いたふうなことを」と読者の失笑を買うだけだろう。
続いて、次の文章はどうだろう。
稲本潤一、中田英寿、そしてごぞんじ本田圭佑。これらワールドカップ日本代表の歴代キーマンたちに共通する点は何か。ずばり、金髪である。
ここに驚くべきデータがある。金髪の選手がゴールを決めれば、その試合は必ず勝ち――。単なる偶然ではない。実は髪の色と選手のパフォーマンスの間には相関があるのだ。では日本人選手の髪の色から躍進の秘密を探ってみよう。
もちろん、この例文の内容はフィクションなので鵜呑みにしないでいただきたいが、例えばあなたが美容師なら、こんな着眼点から面白い読み物を書くことができるかもしれない。つまり重要なのは切り口で、自分ならではの小さな視点を見つけられるかどうかである。
そのためにはブログで腕を磨くのもいいだろう。ブログがヒットするかどうかは、もっぱら独自の切り口とピンホールな話題にかかっているのだから。