「私のところに持ち込まれる相談や企画書で、一番多いのが自分史。次に小説やエッセイ。これらはよほど特殊な経験・実績がなければ出版社には採用されませんから、基本的にお断りしています」

「出版塾」を主宰する畑田洋行氏の言葉は辛辣だ。中小企業診断士の資格を持ちながら、7年前に素人が本を出すのを手伝う出版コーディネート業に転身、これまでに170~180冊の本を世に出している。手掛けた企画が出版社に採用される率は約75%。かなりの高率だ。

畑田氏は何をどう指導しているのか。第一関門は、企画書の書き方だ。

「私がすべきことは、最初に送られてきた企画書を評価することではなく、『見えない部分に、何かが埋まってる』という前提で根掘り葉掘り質問すること」

第三者の目で何度も質問を浴びせ、本人が気付いていない、あるいは言葉にしていない“ウリ”を掘り起こし、何度も企画書を書き直しさせる。平均して10~15回、メールをやり取りするという。

「埋もれたものがワーッと表に出てきたら、それを誰が読んでもわかるように丁寧にまとめる。これが75%の秘訣です」

次は、企画書の送付だ。内容に合った出版社のリストを渡し、封筒の書き方、送り状の書き方なども指導する。通常、30社ほどに送付するという。

「見込みがある場合、ほとんどは出版社に着いた日か翌日に連絡があるようです。声さえ掛かれば、9割方は採用される」

最後に執筆だが、当然ハードルは高い。

「評判のいいメルマガやブログはそのまま本にできる、と勘違いしがちです。しかし、大金を払ってリスクを取るのは出版社。プロの編集者の目は、一般の人が考えるよりはるかに厳しいですよ」

編集者は、原稿チェックの段階で出版の見込みがなくなっても絶対にそうとは明言しない。抽象的・感覚的な注文で何度もダメ出しを続け、根負けして自然消滅するのを待つ。それゆえ、畑田氏が裏でリライトすることもあるという。

初版は4000~5000部が相場。印税は、出版界では10%が常識とされるが、中小の場合は8%が標準。なかには5%という例もあるとか。ただその場合も、重版で9%、10%と上昇する。畑田氏の取り分は企画書作成のサポート料とリライト料。印税は全額著者が取る。

出版経験のある塾生は30~50代、世代に偏りはない。いずれも、本人の「経験」と「実績」に裏打ちされたテーマを選んでいるのが共通項という。問い合わせ自体はここ数年、40~50代の女性が急増。時流に乗ったテーマを頭でこねくり回す男性よりも、地に足の着いた目線の提案が多いという。

「漫然と仕事をやっていただけの人に、他人を唸らせるものはない。問題意識を持ち、自分なりに解決した経験のある人の企画がモノになっていますね」