自分の人生を本にしたい。仕事で培ったノウハウを世に伝えたい……。だが、そんなに甘くない!エッセイの達人が、人気ブロガー、さらにはプロ作家になるための4つの心得を開陳する。(>>前回の記事はこちら)
「ある、ある、へえ」で読者を引き寄せ、突き放そう
「カギ括弧」の用法は案外難しい。地の文でもいえることにカギを使うのはもったいない。「ああうまい」「おいでやすー」「バカヤロ」「ひえーっ」といった肉声や擬音などに使ってこそ意味があるのだが、そのへんの基本ルールがアマ文筆家にはしばしば理解されていない。
それから、1センテンスに2つ以上の話が入ったり、「、」から先が別の話になっているような、無秩序な文章を書く人も多い。話は「1センテンスに、1つ」。当たり前のルールだが、このあたりから厳密なチェックをしたほうがいい。
さらに難しいのが「一人称」の使い方。文壇の大御所ならいざ知らず、一介のアマ文筆家が一行目の頭からいきなり「私(僕)は……」はないものと思ったほうがいいだろう。それが許されるのは子どもの作文だけで、大人がやると「おまえはどこの誰だ? エラソーに」と読者からツッコミが入りかねない。
ただし、ここはというところでは、一人称の使用をためらってはならない。「○○だと思われる」といった無責任な文章ではなく、「私は◯◯だと思うのである」と、主体をはっきりさせた文章を書くことをいつも心がけたい。
ここからは、応用編。プロが無意識に実践するテクニックを2つ紹介しよう。
まずは、「ある、ある、へえ」の法則。「共感、共感、発見」といいかえてもいいのだが、読者が「あるある」とうなずける話を最初に2つ振っておいて、3つ目で「へえ、そうなのか!」と予想しなかったオチをつけるというやり方がある。一度手元に読者を引き寄せておいておもむろに突き放す。その意外性が読者には面白さになるわけである。
もう一つは題して「スーパーマリオ」理論。飛んだり跳ねたりしながら前へ前へと進んでいくあのマリオの気分を、読者に味わわせるような文章づくりのことをいう。スピードと跳躍感があって、へたをすると振り落とされそうなスリリングな文章といってもいい。上段と下段の例文を比べていただきたい。
下の例文では、話がぐだぐだと同じところをなぞって少しも前に進まないので、読者にその先を簡単に読まれてしまう。
……だから、小学校の体育の時間はいやでしかたなかった。跳び箱、鉄棒もそうだが、とくに球技が苦手だった。
そこで一念発起、中学校ではバレーボール部の門をたたいた。まったくのスポーツ音痴で、最初はボールに身がすくんでいた私だが、段々と少しずつスポーツをする面白さもわかってきた。なんとかレギュラーになれたのが2年生の終わり。そして3年のときには、選手として……
一方修正文では、段落と段落の間に距離を設けたことで文章にスピードがつき、ずっとめりはりのある展開が実現しているのがおわかりだろう。
……だから、小学校の体育の時間は生きた心地がしなかった。私の場合、いちばん恐怖だったのは球技系である。ボールがこっちへ飛んできたとたんに、いつも目の前は真っ白、膝はガクガクで、体育着のズボンのなかに小便をもらしそうになったこともあった。
ところが、その私が中3のときには、なぜかバレーボール部のキャプテンとして県大会に出場していたのである。……