「文章力は関係ない」。ビジネス作家育成のプロとして圧倒的な支持を集める土井英司氏は断言する。では、どうすれば本を出せるのか。ベストセラー作家2人の証言を交え、その最短ルートを明らかにする。
『バカでも年収1000万円』の著者、伊藤喜之さんは22歳のころ、コンビニで夜勤のアルバイトをしていた。昼間の仕事だけでは食べていけないほど、当時の給料は安かったが、数年後、同じコンビニに伊藤さんの本が並んだ。しかも、コンビニで最も売れたのが、その店だったという。
伊藤さんはこう話す。
「当時、書棚の整理を担当していたので、仕事の合間によく雑誌や本を読んでいたんです。まさか、その中に自分の本がまじるなんて思いませんでした。夜勤の兄ちゃんからここまでこられたんですから」
本を書くなんて、文章力があって才能のある人だけの特権だと思う人もいるかもしれない。だが、伊藤さんは高学歴というわけではなく、大企業に就職できたわけでもない。それでも、16万部のベストセラーを書くことができたのだ。
ビジネス作家を養成する「出版戦略セミナー」を主宰するエリエス・ブック・コンサルティング代表の土井英司さんは、「本は誰でも書ける」という。
「人はみな、何か積み重ねてきた自分だけの経験や技術、コツみたいなものがあります。それを引き出して、読者目線を持つことができれば、それだけで一冊の本になるんです」
問題はその「金脈」がどこにあるか、自分でわかっていないことだ。
「字が大きくてスカスカに見える本でも8万字くらいはあります。それだけ書くには、日ごろから自分がよほど興味を持って、ストックしているものをテーマにしないといけません。でもそれは、自分が好きだと思っていることとは違うことが多いし、読者が共感できるものである必要があります」
では、どういったテーマが読者の共感を呼びやすいのか。土井さんは2つのタイプを挙げる。
一つは、業界では常識だが一般にはあまり知られておらず、かつ知っておくとメリットがあるようなこと。医者であれば、体温を上げることがいかに健康にいいかとか、不動産業界で働く人なら、マンションを買うにあたって知っておきたいことを心得ているはずだ。消費者の知らない裏側を知っていることは売りになる。
もう一つは、仕事や生活で役に立つノウハウを教えること。教師やコンサルタントなどを職業にしていて、日ごろから人にものを教えている人は、それをそのまま本にできることが多い。若くして出世した人や起業したサラリーマンなど、自分なりの「成功のコツ」を知っている人も強い。たった3年で、年収200万円の平社員からベンチャー企業の取締役となった前述の伊藤さんも、このパターンだ。
文章に関しては、土井さんに言わせれば編集者がサポートしてくれるから「どうにでもなる」そうだ。書くのが苦手な場合は、口述筆記、つまり自分で話したことを録音し、書き起こせばいいという。