会話が上手な人は、初対面の相手と何を話しているのか。渋谷で25年続くバーのマスター・林伸次さんは「相手の勤め先がNHKとわかり、大河ドラマを話題に出しても、その人の仕事には関係ない場合が多い。会社名ではなく、職種について話した方が盛り上がる」という――。

※本稿は、林伸次『結局、人の悩みは人間関係』(産業編集センター)の一部を再編集したものです。

四国県愛媛県のNHK松山市放送局
写真=iStock.com/winhorse
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渋谷・宮益坂のナンパで相手が立ち止まるマジックワード

僕のnoteに、たぶん同業の方だと思うんですが、「お客様から何か面白い話をしてと言われたのですが、どう対応すればいいのでしょうか?」という質問が届きました。

バーに行かない方はどういう状況なのかよくわからないですよね。僕、修業時代もいれたら26年もバーテンダーの仕事をしているのですが、この、お客様から「面白い話をして」は、しょっちゅう言われるんですね。

最初に言われたときのことは今でも覚えています。バーテンダー修行を始めた頃で、「なんか面白い話して」という言葉を聞いたとき、「ああ、そうか。真夜中にこういうバーで、バーテンダーに何か面白い話を聞かせてっていう人たちがいるんだ」と思って、びっくりしました。

そしたら僕の師匠が、「おまえ、面白い話くらい用意しておけ」って助言してくれたので、意識的に「面白い話」をストックするようになりました。

例えば、「僕の友達でコンビニでバイトしている奴がいるんですけど、コンビニ店員って自動ドアが開いたら、反射的に『いらっしゃいませ』って言うようになるらしいんですね。

そいつとこの間、山手線に乗っていて、電車が渋谷についてドアが開いたら、そいつ『いらっしゃいませ』って思わず言ってしまったんです」って感じの軽く笑える話を、いろいろと用意しておきました。

でもやっぱり、みなさんお酒が入っているので「性愛ネタ」が一番受けるんですよね。もちろん性愛に関する話は相手を選びますが、だいたいは聞いてくれたお客様が「じゃあ俺が聞いた話なんだけど」って話を引き継いでくれるので楽です。

僕の場合は、人に聞いたり、本で読んだりした話を一生懸命ストックしていたのですが、当時そのバーにいた渋谷の宮益坂でナンパをするのが日課というすごくイケメンのバーテンダーが、毎回「こんな風にナンパしたら、こんな展開になった」というネタを披露していて、「すごいなあ」と羨ましく思ったのを覚えています。

ちなみに、ナンパは「とにかく立ち止まってもらう」っていうのが難しくて、いろんな「かけ言葉」を研究したそうです。彼が言うには、一番止まってくれるのは「すいません。あんまんと肉まんどっちが好きですか?」っていうフレーズで、「なるほど。そういうのって現場でしかわからないなあ」と感心しました。