現地の人々と同じ目線で考え、行動しろ

私は建設機械産業は、成長産業だと言い続けています。どの国も豊かになろうと、道路、鉄道、港湾などのインフラを整えて、経済を活性化させています。世界を見渡せば、これから豊かになろうという国はたくさんあります。今日の日本をつくり上げるのに、戦後だけで60年。ということは、これから発展する国も数十年かけて豊かになっていくのであって、その間、我々にチャンスがあるのです。

建設機械専業では危ないというアナリストもいますが、当社は建設機械しかやりません。いや、建設機械だけで十分範囲が広く、製品もマーケットもどんどん広がっています。それを証明するように、今、日立建機の市場は中国を中心とした新興国の比率が大きくなっています。

市場がどこであれ、いいものを提供することに変わりはありませんが、重視されるポイントには違いがあります。日本はきめが細かく、お客様の要求が非常にシビアです。新興国需要が中心になった今でも、品質の水準については、日本市場が先生であることに変わりありません。

が、それが行きすぎると、「花魁の髪飾り」になります。華美な機能をジャラジャラ付けて、誰が使うのかわからないような部分にコストをかけるからです。

一方、新興国は極めてシンプルに、しかし高度なレベルで機能を追求します。例えばパワーショベル。彼らに言わせれば、一にも二にも「掘る機械」だと。つまりは「地球とケンカする」のだから壊れてはいけない。たとえ壊れてもすぐ直せなければならないのです。

こういう新興国のニーズを吸い上げ、いかに現地に溶け込んでいけるかが、当社の営業の腕の見せどころです。私は、現地の人々と同じ目線で考え、行動することが肝だと思います。

かつて欧州でフィアットと展開していた合弁事業が解消になりました。最大の不安は、現地ディーラーをごっそり失うのではないかということでした。ところが、みんな当社についてきてくれました。どのディーラートップも「メーカー目線ではなく、俺たちと同じ目線で話してくれるから」と言うのです。

また、かつて私が突然放り込まれた中国では、右も左もわからない。そこで辞書片手にたどたどしい中国語で必死に語り、地方の隅々まで足を運び、徹底的に酒を飲んで飲んで飲む。とにかく溶け込む努力を惜しみませんでした。現地の税関や税務当局の役人とはさんざんやり合い、喧嘩もしました。しかし、現地で仕事をやらせてもらう以上、外してはいけない道がいくつかあり、これは徹底して尊重しました。

そんな思いが通じていたのか、つい先日、中国事業の15周年式典を開催したところ、当時私に「おい、罰金出せ」なんて言っていた役人たちが続々とお祝いにかけつけてくれたのです。同じ目線で真剣に戦い、溶け込んだ末に勝ち得る信頼、そしてそれを追求する人材こそが、日立建機の営業を支えています。

※すべて雑誌掲載当時

(斉藤栄一郎=構成 大沢尚芳=撮影)
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