トレンドを提案しつつ
「安さ」をブランドにする

しまむら社長
野中正人

1960年、群馬県生まれ。84年中央大学法学部卒業、しまむら入社。98年商品四部長、99年経理部長、2003年取締役、05年より現職。
「2年前の減収減益がベクトルのブレを修正するいい機会になりました」

私自身が「口ベタ」なので、偉そうなことは言えない。しまむらという会社もメディアへの露出を控えめにしてきたので、あるいは口ベタ企業だったと言えるかもしれない。だが、いま「ブランド化」をテーマに、口ベタ脱出を図っている。

私は、新卒から26年間ずっと、しまむらで働いてきた。振り返ると、世の中が10年区切りで動くのに合わせて、しまむらも進化を遂げてきた。

戦後のモノのない時代から1980年代までは、商品が豊富に揃っていることに価値があった。私が入社した当時は、店舗内に商品が邪魔なほど溢れていた。ところが次第に「安いだけ」では通用しなくなった。品質が伴わなければ、いくら安くても売れないのだ。そこで、「安くて、品質のいいものがありますよ」が店の基本になった。

90年代に入ると、品質だけではなく流行に乗った商品が求められるようになった。しかし、トレンドを追い求めると、読みが外れたときのリスクが大きい。90年代初めは、他店の店頭で売れている商品を調査して、2、3カ月後には店頭に並べるようにした。流れがゆっくりしていたので、たとえ半歩か一歩遅れることになっても、十分に商売になった。

2000年代に入ると、半歩の遅れでは売れなくなってしまった。トレンドのサイクルが非常に短くなる一方で、しまむらの店舗数は1000店を超えるようになり、2、3カ月の遅れでは新商品を投入できなくなった。こうなると、もはや流行の一番先頭を走る以外にない。情報収集力をつけ、極力当たり外れのリスクを回避するようにしよう──。これが00年代、最初の10年の方針だった。