言葉の揚げ足取りに終始したメディアの罪は重い

――政治も経済も停滞した時代だからこそ、価値紊乱者が求められている気がしますね。

猪瀬直樹『太陽の男 石原慎太郎伝』(中央公論新社)
猪瀬直樹『太陽の男 石原慎太郎伝』(中央公論新社)

ホント、そう思うよ。しかもいまはポリティカル・コレクトネスの時代でしょう。その結果、政治家は言質をとられないように「検討します」ばかりの答弁になって、具体的な内容に踏み込めない。

その点、石原さんは官僚の作文ではなく、すべて自分の言葉で忖度なしで話した。もちろん場の空気や相手の思惑になんて忖度もしない。だから、ささいな失言をメディアに大きく取り上げられた。

記者は、発言の真意を確かめればいいのに、直接インタビューしないし、石原さんの本もろくに読んでいない。メディアを通すと石原さんは傍若無人に見えたかもしれない。でも、実際は地位とか年齢などの垣根がなくて、誰とも対等に付き合う人であり、疑問を投げかければ、しっかりと答えを返してくれる人だった。それなのに関係性を築けなかったメディアは石原さんの揚げ足取りに終始した。

いまの日本社会にこそ必要とされる存在だった

思い出すのは、都知事だった石原さんが、海外視察のついでにスキューバダイビングをしたときのこと。嗅ぎつけた朝日の記者に〈都知事、公務先でスキューバ〉と書かれてしまった。でも、どう考えてもおかしいでしょう。都知事は休みを利用し、趣味を楽しんだらダメなのかと。

インタビューを受ける猪瀬氏。「石原さんみたいな価値紊乱者が100人いれば日本は変わる」。
撮影=プレジデントオンライン編集部
インタビューを受ける猪瀬氏。「石原さんみたいな価値紊乱者が100人いれば日本は変わる」。

これも一種の同調圧力だよね。窮屈な空気を生み出す同調圧力が、政治家の言葉を空疎にする。役人の言葉が遠回しになったり、経営者の言葉からオリジナリティーが失われてしまったりしたのも同調圧力が強すぎるから。

そんな社会だから、企業も、ルールや規則を守る――いわば同調圧力に従うヤツばかりを採用する。平成、令和という時代は同調圧力に従うような人ばかりが再生産されてしまったから暗くて元気がない。それじゃ閉塞へいそく感は打ち破れない。

でもかつての創業者の時代は違った。戦後、ホンダやソニー、ダイエーなど、日本から旧来の価値観にとらわれない企業がたくさん生まれた。同調圧力に屈して、ルールや規則ばかりを守るタイプの人間には、創業なんてできるわけがない。昔の経営者のような感覚を持つ人なら、スキューバを楽しむ都知事を咎めることがなかったはず。いまの日本を劇的に変えるために必要なのは、石原さんのような素直で無鉄砲で、忖度しない価値紊乱者だと思うんだよ。

(聞き手・構成=ノンフィクションライター・山川徹)
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