ドイツでもウイルス学者たちは引っ張りだこだった
2020年、ドイツがコロナで上を下への大騒ぎになっていた頃、テレビやインターネットにほぼ毎日登場していたのがクリスチアン・ドロステン教授。ベルリンはシャリテ医科大学のウイルス学者である。シャリテの附属病院はヨーロッパ最大規模で、優れた研究で知られる。世界の独裁者にも、病気になるとこの病院に飛んでくる人は多い。
さて、政府のアドバイザーでもあり、NDR(北ドイツ放送)の「コロナウイルス・アップデート」という人気ポッドキャストの解説者でもあったドロステン氏は、一躍、国民スターとなった。コロナについての解説者は他にもいたが、感情を交えず淡々とわかりやすく説明をする姿に人気が集中。
しかも氏は、コロナやワクチンについての間違った意見の拡散を防ぐことも自分の任務だと思っていたらしく、“正しい知識”で国民を守ろうとしている政府にとっては、まさに鬼に金棒だった。一方、口さがない人たちは、これだけテレビに出ずっぱりでは研究する暇はなかろうと陰口を叩いた。
かつては夜間の外出さえ禁じられていた
ドイツでは、20年春、厳格なコロナ対策が採られ、学校も幼稚園も託児所も閉まった。マスク義務も厳しく、州によっては、着けていなければ罰金を取られたりした。2020年のクリスマス頃は、家で集まる人数にも厳重な制限がかけられ、それどころかバイエルン州では一時、夜間の外出さえ禁じられた(これに関しては多数の訴えがあり、最近になって憲法裁判所が違憲判決を出した)。
夏には下火になったコロナだったが、クリスマスが近づくと、政府は用心のため、もう一度4週間の厳しいロックダウンをかけた。ただ、その直前の国会では、その効果や法的根拠をめぐって侃侃諤諤の議論となった。
当時のメルケル首相は、防疫対策には「人間の命が懸かっており」、感染者の増加を抑えるためには「適切で、必要で、(防疫効果との)バランスが取れた」ものだとした。そして、コロナの危険を軽視する人たちのことを、「嘘、歪んだ情報、憎悪は民主的な議論だけでなく、ウイルスとの戦いをも妨害する」と弾劾したのに対し、右派政党AfD(ドイツのための選択肢)のガウランド氏は、「政府が行う毎日の新規感染者数の発表は、戦時中の爆撃速報さながらで、国民を恐怖に陥れるプロパガンダだと同じだ」、「わが国の主権は国民にあることを思い出していただきたい」と反論した。