「誰かの仕事を楽にする」は自分を楽にする

開発の人間は仕入れ先に与えるべき情報をいつの間にか絞ってしまっていたのです。

そこで、新たにフォーマットを作り直しました。事前に仕入れ先に知らせておくべき情報の欄を大きくして、モンレンのなかに作ったのです。

そうしたら、両社の間を行き来するモンレンの数は劇的に減りました。

こうして、仕入れ先という「他の誰か」の仕事は楽になったのです。

同時に、トヨタの開発部もまたモンレンへの対応が減ったため、仕事が楽になりました。

世の中にひとりでやれる仕事はありません。どんな仕事にも関係者がいて、そのおかげで仕事が前に進むのです。ですから、相対する関係者の仕事が楽になれば、自分もまた楽になるのです。

他人に尽くせば、自分にもちゃんと返ってくるのです。つまり、他人を楽にすると自分もまた楽になるわけですね。

短期の生産性向上を目指しても長続きしない

尾上さんは言いました。

「原価低減、生産性向上ばかりを言い募ると、間違える人たちが出てきます。利益主義だと勘違いして、短期的な利益をあげるためのカイゼンに陥りがちなんです。

サラリーマンの社長や幹部は自分がいる間に利益を出さなければいけないので、とにかくもうかることを考えがちです。長期目線を立てて、10年後に儲かる事業にはあまり興味を示しません。株価にすぐ反映されて、立派な経営者だと言われたいのかもしれません。でも、本当にその会社がよくなるのはやはり長期目標、長期計画にかかっていると思います。

TPSもまさに同じで、地盤からしっかりやっていって、体質を強化して、やっと結果が出てくるのがわれわれのやり方じゃないかなと思うんですよ。

短期の生産性向上を目当てにすると、結果だけを追ってしまう。それではやっているほうは疲弊しますし、長続きしないんです」

工場の現場で働く人々
写真=iStock.com/eyesfoto
※写真はイメージです

これぞ「ザ・トヨタ生産方式」は存在しない

かつて、トヨタ生産方式をまとめた大野耐一さんはこう言っていました。

「ザ・トヨタ生産方式はない」

TPSは問題解決に使うものではあるが、ひとつのやり方に固定してはいけない。時代と状況によって変わるのが当たり前だ、と。

そして、「ザ・モノと情報の流れ図」もありません。こちらもまたどんどん変えていけばいいのです。

ですから、ネットに出回っているトヨタの考え方はすべて古いといってもいいでしょう。それくらい、変化しているのがトヨタです。

例えば、生産調査部は2018年から経理の仕事のうち決算業務についてカイゼンを始めたそうです。