分厚いマニュアルを作る必要はない
海外工場の従業員にトヨタ生産方式を伝える役目を任された小西工己さん(現名古屋グランパスエイト社長)の仕事は、1対1の対話を講義形式にすること、それをマニュアルにすることでした。
小西さんはどうやったかといえば、分厚い原理原則のマニュアル(手順)を作ったわけではありません。問題解決の手順に沿った現場のケースをかき集め、現場での対話の形式をうまく残し、ケースから真実(問題解決の手順)を導き出す帰納法的なやり方を取ったのです。
そして海外の教育・改善担当者が、小西さんのケーススタディ集(問題解決のステップに応じたケース満載)作成や英語化に協力し、座学での教育研修のシステムも作っていきます。
トヨタ生産方式そのものを教えようとする場合は「Dojo(道場)」という現場の生産ラインのモデルを作り、そこで手を動かしながらトヨタ生産方式の考え方を伝えているところもあります。
トヨタの教育は人を集めて講義しておしまいといったものではありませんし、常に本質を教えようとしています。
社員の「自主研究」を幹部が自らアドバイス
トヨタには自主研というトヨタ生産方式を学び、また、カイゼン提案と結果を発表する会があります。
生産現場、事務技術系の職場の人たちがチームを組んで、カイゼンのプランを出し、成果について発表します。
その際、TPS伝道師でありエクゼクティブフェローの友山茂樹さん、TPS本部長の尾上恭吾さんが各チームのサポートをするのですが、2人は発表会までに少なくとも2回はリハーサルを見て相談会をやります。相談会とは2人が時間をかけてアドバイスすることです。
通常のプレゼンでしたら、プランを採用するかしないかだけです。特に感想を言うことはありません。また、発表会でしたら、ひとことふたことの感想を言うだけですし、発表を聞く人間がリハーサルを2度も3度も見ることはないでしょう。
しかし、相談会にこそトヨタらしさがあります。発表の出来不出来よりも、発表会に至るまでプランを鍛えてブラッシュアップする。そのために同社の幹部2人が時間をかけて教えます。