文字だらけはダメ、優等生的な文章はもってのほか

例えば、第2回〈「社内の花見」も毎年カイゼンする……トヨタ歴代の「花見の幹事」が細かすぎるマニュアル資料を残すワケ〉で触れた「社外の人間のインタビュー動画を撮って、それを発表資料に加える」ことを提案したのも2人です。

「資料が文章とグラフだけだと平板だからイラスト素材や写真、動画を入れよう」これも2人からの提案です。

「優等生的で官僚的な難解な文章をやめろ」と示唆したのも2人です。

こうして、相談会を経た発表は見やすくて、しかも見て面白いものになっています。そして、相談会では発表プランについてだけでなく、2人はTPSとは何かについて、何度も補足します。

「他の誰かを楽にするため」という社長の豊田章男さんのTPSについての解釈についても2人が補足します。

こうしてみると、相談会には徒弟制度的なトヨタの教育システムが残っているといえます。なお、自主研は毎年、開かれますから、トヨタの社員であれば1度か2度は経験します。従業員30万人の巨大企業にもかかわらず、本来の教育とは別に1対1の対話による教えが残っているのです。

プレゼンテーションをする男性
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なぜトヨタの上司は「一生懸命やれ」と言わないか

トヨタで行われている教育、日ごろの現場教育ではもうひとつ、特徴があります。それは部長以上の幹部クラス(大半)は部下に「一生懸命やれ」とは言わないことです。

かつて、トヨタ生産方式をとりまとめた大野耐一さんは部下に「一生懸命やれ」とは言いませんでした。KINTOの社長、小寺信也さんが「頑張れ」とか「特別に対応しろ」と言わないことと似ていますね。

「オレは一生懸命やれと言わない。なぜなら、できなかったやつは『僕はできなかったけれど、でも、一生懸命やったんですよ』と言う。だから、言わない。できるように自分で考えてやれ。そう言うだけだ」

確かに、一生懸命やれ、頑張れと言ったところで、担当した人間は肩に力が入るだけです。

「一生懸命やれ」という言葉は実効性のない言葉です。言われた部下にとってはやる気が出る言葉ではありません。上司は自分に対して言い訳として使っているだけです。