トヨタ自動車の定額制サービス「KINTO」は2019年3月にスタートし、2022年1月までに約3万件の申し込みを集めている。だが、当初は4カ月で累計50台の申請にとどまり、順調な出だしとはいえなかった。どこを間違えていたのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんによる連載「トヨタがやる仕事、やらない仕事」。第6回は「不人気だったKINTOの成長」――。
2021年9月12日、イタリア・ウディネのディーラーに並ぶ新しいレクサスモデル
写真=iStock.com/Luca Piccini Basile
※写真はイメージです

大企業トヨタが作ったベンチャーとは?

トヨタは車を作っているメーカーからモビリティサービスの会社へと変化しているところです。

裾野市(静岡県)に開発している都市開発事業「ウーブンシティ」はその代表とも言える新事業でしょう。

本稿ではトヨタが始めた自動車のサブスクリプション(定額利用)サービスの事業、KINTOを例に挙げて、トヨタの問題解決を考えていきたいと思います。

KINTOという新事業を立ち上げる際にどういった仕事のやり方をしたのか。
チームワークをどうビルドアップしていったか。
考えた企画は果たしてそのまま通用したのか。

トヨタはEV化という変化に合わせていくつもの新事業をスタートしています。今は関連のベンチャー企業を多く抱える会社でもあります。

世の中の経営者はよく「ベンチャー精神を忘れるな」と言いますけれど、大企業がベンチャー精神を忘れないためには、実際にそこに身を置くしかありません。つねに新事業を立ち上げればいいんです。既存の事業ばかりに注力していて「ベンチャー精神を忘れるな」と言っても、それはしょせん無理というものでしょう。

KINTOについて多少、説明します。

KINTOはクルマのサブスクリプションサービスを主に展開している企業です。契約はウェブ、販売店で申し込むことができますし、使用する自動車を購入するのではなく毎月、定額を支払って借りる形になります。初期費用フリープランの場合は、頭金は不要です。

定額料金には、車両・オプション代金、自動車税、自賠責保険、任意保険、メンテナンス、故障修理、登録諸費用が含まれています(車検代が含まれるプランもあり)。

申し込み件数は50件→3年後に約3万件に

なお、ひとつ誤解されている点があります。

「KINTOはトヨタから直接、車を仕入れている。販売店には何の得もない」

そうではないのです。

KINTOはディストリビューション機能がなく、在庫車を置いておく場所もありません。ナンバーを取るといった登録手続きもできませんし、故障を修理する機能もありません。

【連載】「トヨタがやる仕事、やらない仕事」はこちら
【連載】「トヨタがやる仕事、やらない仕事」はこちら

KINTOは契約の申し込みを受けるだけで、商流ではKINTOが販売店から車を買い取ってユーザーにサブスクで貸し出します。販売店にとってKINTOはリース会社と同じような客に当たるわけです。

さて、同事業が始まったのが2019年で、3年が経過しました。スタートした当初、申込み件数は4カ月で累計50件という数字でしたが、3年後の現在は累計約3万件となっています。従業員も30人から約500人(2022年10月時点)に増えていますから事業は軌道に乗りつつあるということでしょう。