正しい「しつけ」とは一体なんなのか。小児精神科医の友田明美さんは「体罰や暴言などの『行き過ぎた子育て』は、子どもの脳に悪影響を及ぼし、記憶力やIQ、コミュニケーション能力を低下させるだけでなく、さまざまな疾病リスクを高める」という――。(第2回)

※本稿は、友田明美『最新脳研究でわかった 子どもの脳を傷つける親がやっていること』(SB新書)から抜粋し再編集したものです。

子どもの前で喧嘩をする夫婦
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体罰は「百害あって一利なし」

マルトリートメント(以下マルトリ)とは、虐待やネグレクトに限らず、「子どもへの避けたいかかわり」を指す総称です。マルトリを経験すると、こころの傷(トラウマ)が生じ、認知の障害(IQ低下)、健康に害を及ぼす行動(薬物やアルコール依存)やさまざまな疾病リスクが高まる可能性があり、最終的には早世につながる可能性があります。

まず、身体的マルトリについて解説します。どんな理由があろうとも、体罰は「百害あって一利なし」です。逆に、「望ましくない影響しかない」ことが研究により明らかになっています。

ハーバード大学のマーチン・タイチャー氏とともに研究をし、最初に報告をしたのが「身体的マルトリによって脳の前頭前野が縮む」ということでした。18~25歳のアメリカ人男女約1500人に聞き取り調査を行い、次のような体罰を受けた経験のある23人を選び出しました。

・体罰の内容:頰への平手打ち、ベルト・杖などで尻を叩かれるなど
・体罰を受けた年齢:4~15歳の間
・体罰を受けた相手:両親や養育者
・体罰を受けていた期間:年に12回以上で、3年以上

「前頭前野」の萎縮につながる

こうした厳格な体罰を受けた経験のある23人のグループに対して、利き手、年齢、両親の学歴、生活環境要因をマッチさせた「体罰経験のない」22人にも協力してもらい、両グループの脳を調べて比較しました。その結果、体罰経験のあるグループの脳は、体罰経験のないグループに比べて、次のような変化が見られました。

・感情や思考をコントロールし、行動の抑制にかかわる「(右)前頭前野(内側部)」の容積が平均19.1%小さくなっていました。
・物事の認知にかかわる「(左)前頭前野(背外側部)」の容積が14.5%小さくなっていました。
・集中力や意思決定、共感などにかかわる「(右)前帯状回」の容積が16.9%小さくなっていました。

前頭前野が萎縮すると、犯罪抑制力の低下や素行障害、うつ病のリスクを高め、強い攻撃性があらわれることもあります。さらに、6~8歳頃に身体的マルトリを受けた場合、脳への影響が特に大きいこともわかっています。体罰は子どもの脳の発達に深刻な影響を与えるのです。