暴言は子どものコミュニケーション能力を下げる

暴言による心理的マルトリは、子どもの「聴覚野」にダメージを与えることがわかっています。聴覚野は言語の理解にかかわる領域で、他人とのコミュニケーションを円滑に行う働きを持っています。過去に身体的マルトリによる脳へのダメージを調査したときと同様のやり方で、18歳までに暴言によるマルトリを受けた人たちと、そうでない人たちの脳をMRIで比べました。

すると、大声で怒鳴られる、ののしられる、責められる、脅されるといった言葉の暴力によるマルトリを受けてきたグループは、そうでないグループと比べて、左脳にある聴覚野の一部である上側頭回の容積が14.1%も肥大していることがわかりました。

聴覚野が肥大するとは、端的に言うと、必要な情報を効率よく得るための「シナプスの刈り込み」が正常に行われていないということです。子どもの脳は乳児期に、情報を伝達するシナプスが爆発的に増えます。その後、代謝が活発になるにつれてエネルギー消費が過剰になるため、脳の中では木々の剪定のように余分なシナプスを刈り込んで、神経伝達を効率化していくのです。

「母親からの暴言」は影響が大きい

しかし、この大切な幼少期に暴言を繰り返し浴びると、正常なシナプスの刈り込みが進みません。その結果、シナプスがまるで伸び放題の雑木林のような状態になり、脳の容積が肥大すると考えられます。特に、聴覚野への影響が出やすいのは4~12歳頃に暴言によるマルトリを受けた人たちで、この時期はちょうどシナプスの刈り込みが進む時期と重なります。聴覚野のシナプスが正常に刈り込まれていない状態では、人の話を聞き取ったりする際に余計な負荷がかかります。その結果、心因性の難聴を引き起こしたり、情緒不安定になったり、人とのコミュニケーションを恐れるようになったりすることがあるのです。

脳へのダメージは、「一人の親からの暴言」よりも「両親からの暴言」のほうが大きく、「父親からの暴言」よりも「母親からの暴言」のほうが影響が大きいこともわかりました。つまり、両親からの暴言や、子どもと接する時間が長いと考えられる母親からの暴言のほうが、脳に与えるダメージという点でより深刻であるわけです。また、暴言の頻度が高く、その内容が深刻であればあるほど、脳への影響が大きいという結果も確認されています。