新事業に「キラキラ企画書」は通用しない
ここからはKINTOのことではなく、トヨタの問題解決、トヨタの仕事で体験したことについて語ってもらいます。
小寺さんは「KINTOという新事業をやってみて、たくさん失敗したし、今もしています」と言っています。そのなかでももっとも「勉強になった」のが、キラキラした企画書は通用しなかったことだそうです。
小寺さんは言います。
「オフィスで一生懸命考えて、さんざん討論して企画書を作ったのですが、わかったことがあります。
会議室のなかだけで意思決定した企画は世の中には通用しません。企画書もまたトヨタでいう現地現物で作らないとダメ。企画は現場で考えなきゃダメなんです。ただし、それは新事業みたいな企画です。
パターン化された既存の仕事だと会議室で会議をやり、ネガティブチェックを入れると、それなりに当たる確率の高いものが出来上がるかもしれません。例えば車の販促計画みたいなものであれば。しかし、新事業の場合は絶対に現場へ行かないとダメです。
スタートしたときに僕らはKINTO ONEとKINTO FLEXという2種類のサブスクを用意したんです。会議室のなかで決めた企画でした。
「レクサスに6台乗れる」がまるでダメだった理由
サービス開始時のKINTO ONEは1台を3年間で乗る。KINTO FLEXはレクサスを半年ごとに乗り換えて6台まで乗れる。KINTO FLEXは好きな車を乗り換えることができるのですから、まさにサブスクリプションです。
これ、すごく魅力的に聞こえるでしょう。ところが応募してくる人はほとんどいませんでした。現実には6カ月ごとに車を変える人はいなかったんです。
毎日、車に乗るわけじゃないから、3年間に6台も乗りたい人はいなかった。中国でも同じ結果でした。中国ではKINTO FLEXをやり、車はメルセデス、BMWも乗れるようにしたのですけれど、これもダメでした。お客さまが車を選ぶ時はサブスクであれ、何であれ、車はじっくり乗りたいんです。現場でもっと話を聞けばよかったと思いました。
新規の商品に関しては会議室で意思決定することにほとんど意味はないんです。とにかく世の中に出してみて、それでお客さんの反応を見て、いけるかいけないかを即座に判断する。それが正しいやり方なんだとわかりました。企画書を練り上げることばかり考えていたんです」
失敗から学んだ小寺さんは新事業の回し方を少しはわかったという。
この話は新事業の担当を命じられたビジネスパーソンにはとても重要だと思います。企画書を軽んじるのではなく、企画は現場のことをよく調べたうえで作ることという、当たり前かもしれないけれど、切実な問題ではないでしょうか。