トヨタ自動車の定額制サービスを提供する「KINTO」は、トヨタ発のベンチャーだ。そこでは「会議室で企画を考えないこと」を重視しているという。なぜなのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんによる連載「トヨタがやる仕事、やらない仕事」。第7回は「KINTO社長の部下との接し方」――。
それぞれの席にグラスと書類1通が置かれ、準備が整っている会議室
写真=iStock.com/Igor Kutyaev
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頑張るよりもやめたほうが得な場合もある

前回記事<「レクサス6車種に乗り放題」は大失敗…不人気だった「トヨタのサブスク」がジワジワと広がっているワケ>からつづく

KINTO社長の小寺信也さんは話を続けます。

「上司の仕事は『ごめんなさい』を言うことだと思うんです。新事業の場合、新企画をいくつもリリースします。出してうまくいかないと、頑張ってみんなで一生懸命育てようとする。

せっかく始めたことだからと一生懸命モードになって周りが見えなくなる。ですけど、頑張るよりもやめたほうが得だっていうことも絶対にあるんです。傷を広げる前にやめたほうが絶対にいいと思う。だからそこでやめる。

そして、やめる判断を上司がすぐにできるのがベンチャーのいいところだと思うんですよ。普通の会社で社長や上司が『やめる』というと社内で袋叩きに遭う可能性が高い。

大会社だと社長から『新企画をやめる』と提案することはまずありません。すると、下からはなかなか『やめたいんです』って提案ができない。中間の管理者層も言えない。

ですが、うちみたいな小さなベンチャー企業は提案者兼社長の私が『申し訳ありません。私が間違っておりました』と率先して言えばすぐに止めることができる。ベンチャーの場合は身軽さを大切にするべきです。

「中古車のサブスク」と「車のアップデート」を開始

もうひとつあります。社長が『ごめんなさい。この企画は途中でやめます』と発表すると、従業員は『うちの会社はベンチャーなんだ』と自覚するようです。自分たちは官僚的な大企業にいるのではない。身軽な会社にいるんだ。だから、当たらない企画はほどほどでやめていいんだと思う。これもまた大事です。

企画には当たるものもあれば外れるものもあります。当たり前です。ダメだと思ったらやめること。それが大事だと思います」

小寺さんは続けます。

【連載】「トヨタがやる仕事、やらない仕事」はこちら
【連載】「トヨタがやる仕事、やらない仕事」はこちら

「KINTOは新車のサブスクリプションですが、中古車も始まりました。これはキラキラしていない現場発の企画です。中古車のサブスクは新車よりもリーズナブルな価格で契約できるので人気が集まっています。誰でも考えられるような企画で、現場からの要望でした。

もうひとつスタートしたのがKINTO FACTORYです。すでに走っているトヨタ車にソフトウエアとかハードウエアのアップグレードをやる新企画です。

例えば、安全装備って毎年進化しています。プリクラッシュセーフティという衝突被害軽減ブレーキなんて、最初は前を行く車にしか反応しなかったのが、通行する人や自転車にも反応するようになりました」