企画のスペシャリストが一度「企画を忘れた」

小寺さんは会議も打ち合わせも現地現物でやったほうがよかったと思っている。それは、会議室では新技術の話をしても、誰もよくわからない。ところが現場に行けば新技術がどれだけすごいものか、新技術を前にすれば、やれることとやれないことがあるのかすぐにわかるからです。現場で会議をすれば空疎な議論はなくなると言っています。

「工場だけでなく、お客さまの反応も現地現物です。ですから、実はトヨタという会社は、新事業に関しては会議や企画書というものにそれほど重きを置いていないようにも思います。私は企画部署が長かったけれど、もっと小さくなっていいんじゃないかって思っています。

KINTOビジネスも当初は部屋のなかにこもって企画書を自分で作って、これならいけると思ったんです。ところがやってみたらお客さまは関心を持ってくれないし、販売店はこちらの言うことを聞いてくれなかった。それで企画を忘れてお客さまに会い、販売店を訪ねたら、そこにいい企画があった。

それはお客さまから、販売店からの要望なんです。お客さまの要望を形にすればよくても悪くてもストレートに答えが出ます。こんなに面白いことはありません」

書類に書き込む手元
写真=iStock.com/marchmeena29
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これはとても大切な考えです。

企画とは自分でひねり出すものではなく、現場に足を運んで客から聞いてくることなんですね。

やはりA3用紙1枚、結論は先に書かない

小寺さんの企画書に対する考え方です。

「企画書の書き方は、20代の頃から研修がありました。いわゆる紙1枚に書けというやつです。それを徹底的に教え込まれるんです。A3の紙1枚に問題解決を書くという。トヨタではどこの部署にいてもその考え方です。

全体を俯瞰したところから、問題発見をして、それに対して対策を打って、プラン、ドゥ、チェックを回していく。それだけです。

問題解決のA31枚が書ければ企画書であれ、報告書であれ、応用できます。ですから、企画書も紙1枚が基本です。海外の外国人社員も同じです。同じ研修をして紙1枚にまとめるよう指導します。ただ、今はパワーポイントが増えてきたので、A3の紙1枚にまとめきることはできないようです。でも構成はそのままです。

なかには先に結論を書く人がいるけれど、結論が間違ったらそれで終わり。ですから、それはトヨタのやり方じゃありません。トヨタは全体を俯瞰することが一番必要だと教えるんです。

それはトヨタのような会社、1台の車を造るのにものすごい数の人が関わっているような会社は全体を俯瞰する人ってあんまりいないという理由もあります。

生産工場では自分の持ち場をきちっと守っていれば間違いなく、いい車が出来上がって売れるっていうのが根底にある。だから、全体を俯瞰することよりも、自分のところをしっかりやろうぜとなってしまう。目の前のことを見る人は大勢いるけれど、俯瞰する人は少ない。

トヨタは自分の会社の弱点も知っているんです。ですから何年かに一度、全体を俯瞰する教育をやります。一度、頭の中をすべてリフレッシュするんですが、あれはすごくいいトレーニングでした」