最高の企画書とは「ネガティブポイントを書くこと」
「若い頃によく言われたのは、1階級、2階級、上のポストになったつもりで全体をとらえること。これもまた俯瞰するための教育ですね。当時の上司によく言われました。
平社員の頃、『課長のつもりで全体をちゃんと見ろよ』って言われました。すると隣のグループがやっている仕事がうちのグループと整合性が取れているか、同じことを両方でやっていないかとかわかるんです。
『ヒラだと思ってヒラの仕事をしていたらだめなんだ』
言われたことのある人は多いと思います。社内にそういう文化があるんです。関係部署に行ったときにも、自分と同じ格の人じゃなくて上の人と話をしろとも言われました。
ですから『出しゃばるな』とか言われたことないです。ヒラなら課長と話す。係長なら部長と話す。それを許容する文化がまたトヨタにはあります」
小寺さんは「企画書を書く時、要らないのは過信すること。必要なのはリスク評価」と言っています。
考えてみれば過信するのはリスクケースの評価をしないからです。企画書には書きにくいことですけれど、「失敗したらこれだけの損になる」ことはちゃんと考えておくべきだ、と。
部下に注意するとき、褒めるときのポイントは?
私自身の経験からひとつ、似た事例を挙げます。
プレゼンの名人、作詞家の秋元康さんからこんなことを聞きました。
「プレゼンで重要なのはそのプランのネガティブなポイントを相手にちゃんと伝えることです。ただし、ネガティブポイントをカバーする方策も付け加える。そうすると、相手は信頼する」
リスクを書いていない企画書があります。書いた人は失敗した時に失うものが何なのかがわからないのでしょう。
相手が企画書を精査する時、見るポイントは成功した場合のケースだけではありません。失敗した時、どうするかがあるかないかを見ているんです。
小寺さんは部下に注意する時、次のようにしているそうです。
「みなさん、ご存じかもしれないけれど、部下に注意する時は2人きりになって直接やります。
逆に褒めるときは第三者経由で褒めます。誰かを褒めるときに同じ課の人間に『ヨシムラってやつ、すごくいい仕事をするよね』と飲み会の場で言うとか。人は他人からっていうのを飲み会の場とかで言うとね、人から聞くとうれしいんですよ。まあ、トヨタに限らず、みなさんやってらっしゃることだと思いますけれど。
また、これよりも、トヨタらしい部下との向き合い方があります」