さて、KINTOの企画段階から経営まで、すべて先頭に立ってきたのがトヨタでは企画部門が長かった小寺信也社長です。物腰が柔らかい人。ジョークを連発する人という印象です。

さて、小寺さんの新事業を立ち上げた時の仕事の仕方を聞いてみましょう。これからの話には新事業を担当する経営者、そして、部下を持つ管理職に役立つトヨタのキーワードがいくつもあります。

「ここで働くんだ。戻らないぞ」と自覚した

小寺さんはこう言います。

「新事業がスタートした時は、トヨタ社内のみんなは様子見でした。おそらくKINTOに限らないと思います。どんな新事業でも社内はどうやってサポートしていいのかわからないのでしょうね。僕らは邪魔者扱いされたわけでもなく、称賛されたわけでもなかった。みんな遠巻きに見ていたのが正直なところではないでしょうか。

ただ、それはとてもいいことなんですよ。『あいつらが勝手にやっている』と思われたほうがいいんです。いろいろなしがらみ抜きで思った通りのことができるわけですから。

トヨタは自由にさせてくれる会社ですけれど、それでも決裁をとって、根回ししてなんてことをやっていたら経営にスピード感が出ません。大企業のなかで新規事業をやるならば別組織にしないとダメですし、移った者は『ここで働くんだ。戻らないぞ』と自覚するべきです」

まずはとにかく仲間を増やすこと

KINTOはユーザーを大切にしていますが、それだけではありません。各地の販売店との協業も大事にしているとのことです。

小寺さんは「新規事業を始めたら、とにかく仲間を増やすことです。敵を作っちゃダメ」と言っていました。

「車のサブスク、そしてEVに進出してくる会社の問題点は販売店との関係をどうするのかということでしょう。日本では車は必ず登録しなくてはなりません。車庫証明もいります。EVであってもメンテナンスが発生します。

スマホと違って車の場合は走っている車にソフトウェアを飛ばしておしまいとはいきません。車体に傷がついたり、壊れたりしたら修理工場へ運んでリフトアップすることも必要になってきます。販売店はわれわれのいちばん大きな財産といっていいでしょう。だからみんなと仲良くする」