名古屋グランパスエイトは過去に一度だけ、J2に降格したことがある。再建のため、2017年に社長に就任したトヨタ自動車の小西工己さんは、1年でチームをJ1復帰に導いた。いったい何をやったのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんによる連載「トヨタがやる仕事、やらない仕事」。第4回は「トヨタ式のスポーツビジネス」――。
サッカーグラウンド
写真=iStock.com/profeta
※写真はイメージです

処置と対策は切り分け、並行して進めるもの

※前回記事<「結論から先に書く」はやってはいけない…トヨタが報告書づくりで必ず徹底させる4大ルール>からつづく

処置と対策の話の続きです。

実はどちらも問題解決には必要なのです。例えば、火事が起こったとします。消防は何をやるでしょうか?

消します。何はともあれ消火です。それは処置。処置ですけれど、家が燃えている時に「これの真因はなんだ」と対策を考えていたら、消防が存在する意味はありません。つまり処置をやるべき時はやる。

加えて真因の追求です。追求は処置を行いながら考えます。そして、火が消えたら、住居の焼け跡を調査します。もし同じような状態の家があったら、そこもまた出火するかもしれないから真因の調査は不可欠です。

【連載】「トヨタがやる仕事、やらない仕事」はこちら
【連載】「トヨタがやる仕事、やらない仕事」はこちら

漏電が真因だったとすれば、建築してから長くたった家には「漏電の検査をしてくださいね」と呼びかけなくてはなりません。再発の防止です。消防は処置と対策を同時進行でも行うのです。

このように処置と対策は並行して進めるのです。ただ、処置は誰にでもできるけれど、対策は真因を見つけないといけません。経験も必要だし、根性も必要だし、骨が折れる仕事なんです。

トヨタの上司は部下の資料もカイゼンする

部下が上司に問題解決の書類を提出するとします。その場合、トヨタでは出てきたものを採否するだけではありません。

内容を見て、何度もブラッシュアップしていくのです。たとえ、ダメな書類であっても、上司が直接、手直しするのではなく、部下に何度も考えさせて直させます。一度で受け取ることはまずありません。

部下にとっては書類を直すことが勉強なのです。「ベター、ベター、ベター」がトヨタの考え方です。上司は少しずつでもカイゼンしていくことの大切さを部下に教えます。

Jリーグ名古屋グランパスエイトの社長、小西工己さんはトヨタの常務でした。広報の仕事を長く続けてきた人です。小西さんは2017年、名古屋グランパスの社長になりました。それは前年、名古屋グランパスがJ2に降格したので、再建を託されたのです。

その際、小西さんが活用したのがトヨタの問題解決、そして、書類の書き方でした。

小西さんはトヨタ時代から「問題解決の人」として知られる人だったこともあって、たった1年でグランパスをJ1に復帰させることができました。

では、小西さんに問題解決について、聞いてみましょう。