それでも「こうやれ」とは指示しなかった
「私は時間をかけて一緒に考えることにしました。そこがトヨタ的です。こうやれ、こういう考え方にしろとは言わないんです。復帰するために何をやるべきかという本質は自ら考えなくてはいけない。
元トヨタの常務だった男が『こうやれ』と言ったら、その通りにやるでしょうけれど、彼ら彼女らは腑に落ちないです。仕事を部下のみなさんにちゃんと認識していただくために上司は力をフル動員しないといけません。そうでないと、部下は絶対に共感しません。共感してもらわないと経営はできません。上から指示するだけじゃダメ」
小西さんは部下に訊ねました。
「どうして15パーセント減の予算なんですか?」
すると、部下はこう答えたそうです。
「これまで降格したチームのなかでいちばん観客動員が減らなかったのがガンバ大阪です。その時はマイナス15%で済みました」
部下は予算を作るにあたって、ちゃんとベンチマークしていたわけですね。
ここで小西さんは③「なぜなぜ解析」を始めます。問題解決(J1復帰)の切り口として他チームの数字を参考にすることは果たして正しいことなのか、と。
小西さんは「最初から予算マイナスを宣言する限り、復帰はできない」と思っていました。それはそうです。弱いチームが補強もせずに縮こまったまま戦っても同じ結果が出るだけです。
トヨタ式「問題解決」で部下に問い続けてみた
小西さんはもっと予算を増やすための切り口はないかと部下に問い始めました。
「なぜ、他のチームを基準にして予算を作成したのですか? それは復帰するための予算作成の基礎になるものですか?」
小西さんは部下との打ち合わせを通して、少しずつポイントを教えていきました。
「復帰するためのベンチマークであれば他のチームではなく、J1にいた時の自分たちにすればいいのではないでしょうか?」
J1にいたけれど、負けていたグランパスをベンチマークにすれば、それよりも大きな予算と計画を作ることになります。勝つにはお金もいるからです。
部下はやっと予算を増やす切り口を見つけました。
小西さんは言います。
「J1時代の負けていたグランパスから30%も予算を落としたら、絶対に勝てません。勝つためには負けて降格した時の自分たちよりも、むしろ、大きな予算でないといけないんです。観客動員も増やす計画でなければならないんです。
ただ、答えを私が言ってはいけないと思いました。そこで、部下が思いつくように私が話をするわけです」