部下にチームの予算書を作らせてみると…

小西さんの話。

「J1からJ2に落ちたことのあるチームはうちだけではありません。オリジナル10と呼ばれるJリーグが発足した頃から1部に在籍していたチームでも、降格したことがないのは横浜マリノスと鹿島アントラーズだけ。あとはどこも降格した経験があります。

そして、降格したらなかなか戻ってくることはできないんですよ。発足当時はジェフ市原だった今のジェフ千葉、元は川崎ヴェルディと言った東京ヴェルディもJ2のままです。それほど落ちたら大変なんですよ」

小西さんはサッカービジネスのプロではありませんでした。ですが、問題解決は得意です。トヨタにいた時と同じ考え方で指導することにしました。

まず最初に、J1へ復帰するための企画書と予算書を部下に作成するよう命じたのです。

小西さんの話。

「収入と支出を考えた予算書を作ってもらったのです。

プロのサッカーチームが売り上げを上げる場合、大きな要素が入場料収入です。何人のお客さまに入っていただきたいかということを計画に盛り込むのが重要です。

お客さまの数が多ければ選手もやる気が出ますし、またスポンサーを見つける時に説得力があります。ところが、チームがJ1からJ2に落ちると、それまでの常識では観客動員が3割くらい減ることになっていました」

縮小再生産の計画では絶対に昇格できない

「それは対戦相手が横浜とか鹿島じゃなくて、選手名を知らないJ2チームになるからです。グランパスのファンは自分のチームは応援しますが、相手チームの選手をまったく知らないのでは面白くないわけです。また、J1のほうがコンペティションが激しいし、サッカーも活発です。試合の内容もJ1とJ2では違う。それで観客が3割は減るんです」

部下から予算案書が上がってきました。見ると、観客が3割減った状況での収入という前提で作成された書類だったのです。

トヨタの書類を作成する上でルールとなっている①「現状把握」のところに、「J2降格したので、観客は3割減る」とありました。ただし、②「目標設定」は「J1に復帰する」と書いてありました。

小西さんは部下を指導することにしました。どういった指導だったのでしょうか。

「3割減ることを前提として企画と予算が書いてありました。しかし、それは間違いだと言いました。お客さまが減ることを前提にしてしまったら、計画は縮小再生産になります。

目標は1年でJ1に復帰することですから縮小再生産では不可能なんです。3割もチケット収入予算を減らしたら、いい選手をとることはできません。何より、昨年の自分たちよりもさらに負ける計画ができてしまう。

そんなの許せませんよ。それで『これではダメだ、やり直そう』と指示したら、今度はマイナス15%の予算になって戻ってきました」