「なぜクルマの修理代はこんなに高いのか」。月額払い(サブスク)で自動車を利用できるサービス「KINTO」の小寺信也社長は、ユーザーに向き合うことでこの事実に気づいた。小寺社長のミッションは、トヨタ自動車に「サブスク」の知見を展開すること。ほかにはどんなことに気づいたのか。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授が聞いた――。(前編/全2回)

※本稿は、デジタルシフトタイムズの記事「自動車業界に大変革を起こすKINTOの全貌に、立教大学ビジネススクール田中道昭教授が迫る」を再編集したものです。

KINTOの小寺信也社長(左)と立教大学ビジネススクールの田中道昭教授(右)
KINTOの小寺信也社長(左)と立教大学ビジネススクールの田中道昭教授(右)

車は夕食後にウェブで買う時代

【田中】コロナ禍でサブスク「KINTO」の契約件数が一気に伸びました。どのように分析されていますか。

【小寺】サブスク以前に、車の魅力そのものが再認識されたことが大きいですね。コロナ禍で「公共交通機関で移動するのは怖い」「週末に移動するなら自分の車の閉鎖された空間で家族と一緒に出かけたい」と車の良さが見直されて、車を買おうかなと思う人の比率が上がった結果、件数が増えました。

もう一つ、ステイホームで販売店に出かけづらいことも影響しています。KINTOはウェブですべて検索できて、なおかつ契約までできますから。

【田中】KINTOのチャネルは、ウェブが6割ですね。従来、車はディーラーが対面で売るのがあたりまえで、ウェブで売るのはテスラくらいだと思われていたのが、KINTOはすでに半分以上がウェブチャネルです。これは最初から企図されていたのですか?

【小寺】目標設定はしていませんでした。ただ、感覚的にはウェブは2~3割だと思っていました。トヨタの販売店のネットワークは強力です。ウェブはそれに勝てないと思っていたし、僕らもそこにすがるつもりで、7~8割は販売店だろうと読んでいました。

しかし、いざ始めてみたら、販売店と深い関係を持っているお客様もいるいっぽうで、販売店は敷居が高くて苦手というお客様も多くいらっしゃった。特に若い方で、初めて新車を買う方には販売店は敷居が高い。ウェブであれば商品情報がすべて入っていて、自分で心ゆくまで検討できるため、相性がいいようです。

興味深いのは、契約をいただく時間帯です。契約のゴールデンタイムは、販売店がやっていない夜の9~11時。おそらく家で食事を終えて、そこからインターネットで車選びを始めて契約にいたるのでしょう。もう一つの山は平日の昼休みで、これも会社勤めの方々が昼休みのちょっとした時間を使って最後の契約を入れているようです。さらに意外だったのは、正月三が日の朝4時にもよく売れたりするんですよ。ディーラーがやってないときのほうが売れるじゃないかと、みんな驚いています。

なぜ若者の車離れが起きたのか

【田中】利用者のプロファイルを拝見すると、20~30代の若年層が断然多い。これは企図されていたと思いますが、想定以上ですか?

KINTOの小寺信也社長
KINTOの小寺信也社長

【小寺】想定以上です。若者の車離れは確かに進んでいます。少し前、免許は持っているが車を持っていない若者がトヨタ自動車に入ってきて「けしからん」と言われていましたが、最近は免許を持たずに入ってくる人もいます。もちろん彼らはその後に免許を取るのですが、これまでには考えられないことです。だから若者にKINTOが届けばと考えていましたが、ここまで売れるようになるとは正直思っていませんでした。

【田中】これまで車を保有したことがない人の利用も多いですね。これはどう分析されていますか。

【小寺】これまで車を買ったことがない方にとっては、販売店での商談に加えて、任意保険も大きなハードルになっていました。任意保険は等級制度で保険料が決まります。車を最初に買ったときには保険料が高くて、無事故を繰り返すと安くなる仕組みです。このためKINTOは等級を外して、何歳でも同じ価格にしました。初めて買うお客様にはそこが魅力だったのかなと。

【田中】自動車保険は負担が小さくないですもんね。

【小寺】ネットで強い保険会社のターゲットは中高年で、その層に「保険料がすごく安い」と訴求しています。ただ、それは20~30代を切り捨てているわけです。われわれは若い層を取り込むため、等級を平準化するような商品設計にしました。

【田中】そこは保険会社さんとかなり交渉されて?

【小寺】交渉というか、一緒に作り込みました。