「まだ車買ってるんですか?」。月額払い(サブスク)で自動車を利用できるサービス「KINTO」は、トヨタ自動車の子会社でありながらこう謳った。小寺信也社長は「『大企業では新しいビジネスなんてできない』といわれてきたが、それを跳ね返したかった」という。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授が聞いた――。(後編/全2回)

※本稿は、デジタルシフトタイムズの記事「KINTO小寺社長の経営哲学に、立教大学ビジネススクール田中道昭教授が迫る」を再編集したものです。

KINTOの小寺信也社長(左)と立教大学ビジネススクールの田中道昭教授(右)
KINTOの小寺信也社長(左)と立教大学ビジネススクールの田中道昭教授(右)

「自動車の売り方に大変革を起こせ」

【田中】KINTOは小寺社長がトヨタ自動車の豊田章男社長の命を受けて始められたとうかがっています。豊田社長からどのようなミッションを受けたのでしょうか。

【小寺】私は2018年1月にトヨタ自動車からトヨタファイナンシャルサービスに移って、このサービスを立ち上げることになりました。その直前に豊田から呼ばれ、こういうミッションを与えられました。

「自動車業界は今100年に一度の大転換期。自動運転の開発やEVなど技術開発は進んでいるが、売り場は何も変わってない。売り方でも大変革を起こせ」

さまざまな分野で「保有から利活用へのシフト」が起きている。車も同じことが起きるに違いない。そうするとわれわれが車を保有してお客様に利用していただくアセットビジネスになるので、ファイナンスカンパニーが後ろ側にいたほうが新しい売り方をつくりやすい。それでトヨタファイナンシャルサービスに移って、新しい売り方にチャレンジしたという経緯です。

【田中】サブスクリプションというアイデアは、すぐ出てきたのですか。

【小寺】いや、移籍するまでの数カ月間は悶々としてましたね。最初は本当に何をすればいいのかわからなくて、自分はもしかするとクビになって外に追い出されたのかな、とすら思いました。だけど保有から利活用の世界に入って何かやるなら、やはりベースになるのはサブスクリプションだろう、と。そこから約1年かけて構想を練り、19年1月にこの会社を立ち上げました。そこから本格スタートしたのは2019年7月です。

いち早くプラットフォームをつくった会社が勝つ

【田中】準備の期間は、どのようなところに苦心されたのでしょう?

【小寺】一番重視したのは、早く立ち上げることですね。われわれはトヨタの販売店から車を買ってきて、その車をお客様に借りていただく業態です。実はこの業態はわれわれじゃなくても誰でもできる。アマゾンが入ってきて先にプラットフォームを取られる怖さもあるわけです。

実際、中国ではアリババの子会社がこの業態で年間数十万台を売っていて、もはや形勢逆転は難しい。ですから、日本の市場は早くやりたかったのです。トヨタの販売店のネットワークは強固で、販売店とパートナーを組んで先にプラットフォームを作ってしまえば、あとからeコマース系がきても負けないぞと。

【田中】起案されてから1年ぐらいで立ち上げたのは、トヨタ自動車の事業としては、もう最短級の最短ですよね。そのスピードの秘訣はどこにあったのでしょうか。

【小寺】KINTOは本体ではなくトヨタファイナンシャルサービスから立ち上げました。それはファイナンスビジネスがベースになること以外にも、もう一つ理由がありました。トヨタのような大組織の中で新しいことをやろうとすると、ネガティブチェックを繰り返すので前に進めない。だから「外に行って勝手にやれ」というのが豊田の狙いだったのです。