「まだ車買ってるんですか?」のCMが与えた衝撃
【田中】社内で叩かれそうな最たるものが、あのテレビCMですよね。「まだ車買ってるんですか?」というコピーは本当に衝撃的でした。よく社内で通りましたね。
【小寺】中では通らないです。ですから、あれはトヨタ自動車に見せずに出しました。出してから、方々から苦情が入りました。
【田中】経営者としてやり切るという勇気だったわけですね。
【小寺】CMの前まで、グループ内では「なにをやっているのか、よくわからない」という感じで見られていましたが、あの後は、「放っておくと変なことをするぞ」と監視の目が強くなりました。まあ、そんなのは知らないよと言って、いまもやっていますが。
【田中】豊田社長は、GAFAがモビリティ産業に入ってくるとゲームが変わるということをいち早く察知されていた経営者で、非常に強い危機感をお持ちです。CMを見て苦笑いしたかもしれませんが、心の中では、自らを破壊する打ち出し方を評価しているのではないですか。
【小寺】最後の最後は豊田が味方についてくれてるに違いないと思っていたから、あのCMはできたんです。そこがなければ踏み込めなかったでしょう。
自らが「ディスラプター=破壊者」になる覚悟を持て
【小寺】もっとも、外に出てやった成果はCMだけではありません。最初はノウハウが何もないので、プライスを大きく左右する保険については保険会社さんに手伝ってもらったし、住友三井オートサービスからリースのプロに来てもらったり、広告代理店にも助けてもらって、混合で立ち上げました。トヨタ自動車は自前主義の会社だったので、そういう展開は中だと想定できなかった。外だからできたのです。
【田中】すごい話ですね。私が連想するのはアマゾンです。アマゾンはもともと世界一の書店でしたが、Kindleで電子書籍を始めるとき、ジェフ・ベソスはKindleの責任者に「本業を破壊するつもりでやれ」と言って立ち上げました。小寺社長の場合は、豊田社長から直接、破壊を命じられたのではないかもしれません。ただ、豊田社長との信頼関係がベースにあって、「きっと経営者の本質はこうだろう」と真意を汲んだからこそ、勇気を振り絞ってやられたのではないかと。
【小寺】そうですね。要は逆張りです。トヨタ自動車の中で新しいことができない原因はたくさんありましたから、それを全部潰しこんでいけばできるし、豊田もそこに期待しているのだろうと思っていました。