KINTOが“愛車”サブスクと銘打った訳

【田中】私はサブスクリプションの本質は売り方や支払い方の違いではなく、顧客と継続的な関係性にあると考えています。顧客と継続的で親密な関係性――企業からの上から目線ではなく、本当にフラットな関係性――が結べていないと解約されるので、いかにそれをつくるのかが重要です。KINTOでは、その点についてどのような努力をされていらっしゃいますか。

KINTO
画像提供=KINTO

【小寺】立ち上がりから約2年間徹底的にやってきたのが、「車をもっと気軽に手に入れてほしい」ということ。頭金がいらない、すべてのコスト込みで突然の出費がない、販売店に行って値引き交渉をしなくていい。そうしたストレスフリーの方法を追求して、それなりの商品はできました。

ただ、カスタマーエクスペリエンスとしてお客様に何が残るのかというと、月々の支払いだけなんですよね。実はKINTOのサービスは「愛車サブスクリプション」といって、わざわざ“愛車”をつけています。これはトヨタ自動車の豊田章男社長のこだわりで、車はいつまでも愛おしい存在でいてほしいという思いがあるからです。車を愛していただくには、買った後の楽しさが重要です。最初はそこに手をつけられなかったので、これから車の楽しさ側を提供して、お客様とのつながりをつくりたいのです。

顧客に車の楽しみを提供する「モビリティマーケット」

【田中】サイトを拝見すると、小寺社長の経営哲学として、「車の愛し方を拡張する」と書かれていて感銘を受けました。しかも掲げるだけでなく、その実践として、4月から「モビリティマーケット」をスタートされました。

モビリティマーケット
画像提供=KINTO

【小寺】われわれが若いころは、車が暮らしの真ん中にいました。車があると、週末が楽しくなる、人生が豊かになる。そういう存在でした。これをまた真ん中に戻すために、車の楽しみ方を売るのがモビリティマーケットです。

最近、車の中で生活するバンライフが注目を集めていますよね。ただ、週末にそういうことをしたくても、たとえば普段乗っているプリウスでは小さくてできない。一方、キャンピングカーを借りたいと思っても、初めてだとどこで車を借りて、自分は何を用意すればいいのかもよくわからない。そんなお客様にある程度パッケージして提供すれば、バンライフに入っていきやすい。

他にも、お客様の自宅近くで車庫入れや通勤路での運転を教える「ペーパードライバー教習」のサービスも提供しています。クルマの運転を楽しんでもらいたいからです。付け加えれば、KINTOでは車はわれわれの資産なので、できるだけぶつけないできれいなまま返してほしい。われわれにも利点があるのです。

【田中】まさにエクスペリエンスデザインから入っていますね。顧客とフラットな関係性ができると他のサービスをアップセル、クロスセルしやすいですが、車を売るだけの従来の関係性より、おそらくサブスクで結ばれている継続的な関係性のほうが結びつきは強い。そう考えると、モビリティマーケットのような商品は、トヨタ自動車本体よりKINTOのほうがローンチしやすかったのではないかと。そのあたりはいかがですか。

【小寺】トヨタ自動車とお客様の関係は、現金売りにしてもローンにしても、車を売ったところで切れて、そのあとお客様がその車をどのように活用するかは関知しない形態です。契約後もいろいろなカスタマーエクスペリエンスを提供できる唯一の形態が、サブスクリプション。そこにどれだけの付加価値をつけて、車がスクラップになるまでお客様と付き合っていけるか。そこにサブスクリプションの将来の可能性があると思っています。(後編に続く)

(構成=村上敬)
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