それで、自動織機から自動車に移ったわけです。トヨタには産業報国という社是がありますが、産業によって国や国民に報いることをトヨタはちゃんとやっている。受け継がれているんです。きれいごとかもしれません。しかし、きれいごとを大切にするDNAがあるんです。やっぱりモノづくりの会社だからみんな真面目なんです。

研修でも、どなたかのために、何かのために、未来のために、環境のためにといったことをちゃんと教える会社です。ハウツーよりも、ビジネスパーソンとしての生き方を教えるんです。自分たちは何のために働いているんだ、と。

どなたかのためにやる。それで喜んでもらえたら、うれしいじゃないか。喜ばれる方の笑顔を思い浮かべながら働こうよみたいな会社なんですよ」

「原価低減と生産性向上」という誤解

さて、生産調査部の尾上恭吾さんはトヨタ生産方式について、こう言います。

「TPSは原価低減、生産性向上が目的と説明されていました。しかし、これは本来の趣旨ではないんです。

社長の豊田(章男)が佐吉、喜一郎のことを思えば、『目的は誰かの仕事を楽にすることじゃないか』と初めて言いました。

これまで生産現場のTPSであれば原価低減、生産性向上が目的と言えば、みんなすぐに理解できました。しかし、経理、広報、新車開発といった事務技術系の職場では原価低減、生産性向上を目的としたら、単に予算を減らせばいいと考える人が出てくるわけです。

そこで、開発部門のTPS指導の際に『他の誰かの仕事を楽にする』をテーマにしたら、見事にハマりました。全社にトヨタ生産方式を広めようと思ったら、原価低減、生産性向上では通用しないんです」

自動車工場の生産ライン
写真=iStock.com/RicAguiar
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開発部門はカイゼン活動で、さっそく、「他の誰かのために」を形にしたそうです。

開発部門は長年、仕入れ先との間で、問題連絡書、通称、モンレンという書類のやりとりをしていました。

モンレンにはトヨタが出した仕様書に対する疑問、つまり、「このように書いてあるけれど、これはどういう意味ですか?」といったことが記してあります。

そして近年、トヨタと仕入れ先の間でやりとりされるモンレンの数が圧倒的に増えてきたという問題が起こりました。ここをなんとかカイゼンしたい、と。

調べてみると、問題点はモンレンの書き方でした。