家族がメンタル不調になったら、どのように接したらいいのか。精神科医の井上智介さんは「励ましたりせず見守り、本人の負担になることはできるだけ取り除いてあげてほしい。ただ、常に100の力で患者さんと向き合う必要はない。くれぐれも無理はしないで」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、井上智介『どうする? 家族のメンタル不調』(集英社)の一部を再編集したものです。

冷蔵庫にもたれかかり、座り込んで俯く女性
写真=iStock.com/monzenmachi
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無理をしない範囲で、励ましたりせず見守る

これまで、心を病んだ人に接したことも、お世話をしたこともありません。
一体何をどうするのが正解なのでしょうか。

メンタルヘルスに不調がある人と接するとき、どのような心づもりでいるべきなのか、ケアするご本人は非常に頭を悩ませるようです。

患者さんをサポートするご家族に、基本的なこととして守ってもらいたいラインの一つは、励ましたりせずに見守るということ。日常生活の中で、本人の負担になってしまうようなことは、できるだけ取り除いてあげてください。

世の中では、優しく、温かく、寄り添い見守るというのが、いわゆる理想の対応である、とされています。確かにそれはある種正しい対応方法です。

しかし、現実の生活の中で理想を徹底できるかというと、難しいと言わざるをえません。

ですから、あくまで自分のできる範囲でいいのです。

無理はしないのが、ケアする側の大原則。

その上で、見守ってあげてください。

ただ、心の病気がやっかいなところは、患者さん本人以上にご家族が、症状について理解し、現実を受け入れるように求められるという点です。自分の疾患を受け止めきれない患者さんは多くいますが、ご家族はそれにつられないでください。

患者さんの回復には、何よりご家族の理解とサポートが欠かせません。病気について、病院について、先回りをして情報を集めるなど、患者さんの代わりにできることを率先してやっていく姿勢が求められます。

本人に愚痴を言わない

自分に余裕のあるときなら、病気を受け入れて寄り添うこともできるでしょう。しかし、長き闘病生活の途中には、疲れや不安から患者さんを気遣う余裕がなくなるときもきっとあります。仕方のないことです。

たとえ受け入れる余裕がなくなったとしても、絶対にやってはいけないことがあります。それは、患者さんに対して苦言を呈することです。

「寝てばかりいないで、体を動かしなさいよ」
「あなたのせいで、こっちがどれだけしんどい思いをしてるか、わかってる?」
「たまには家事の一つもやってくれない?」

そんなふうに思うのはいいのです。しかし思っても、本人に向かって口に出してはいけません。あなた自身がどれだけつらくても、患者さん本人にだけは言わない、という一線は必ず守ってください。