社会的動物である人間の悲しい性質

なんともやるせない顛末てんまつですが、肩書きは、私たちが考える以上に「私」たちに影響を与えます。

たとえば、コミュニケーション研究では、人は無意識に声の調子や話し方を、権力や権威を持つ人に近づける傾向があったり、社会的地位の高い肩書きを持っていると、身長が実際よりも高く見えたり。このような心理は、ヒトが「人間」になれた人類の歴史と深く関係しています。

社会的動物である私たちは、他者と協働することで生き残ってきました。自分が生き残るためには他者から「コイツは使える、コイツと力を合わせたい!」とみなされる優位性が必要でした。過去のそれは肉体的な強さであり、現代は「社会的地位」です。件の部長待遇さんは、「俺は使える奴なんだぜ!」と見せつけたかったのでしょう。

人には、自分を大きくみせたい心理があるし、強い人に好かれたい心理もある。人間って、本当におもしろいなぁとつくづく思います。

捨てられない名刺=がんばった自分の証し

年齢を重ね“会社員アイデンティティー”が揺らぎ、肉体的にも、精神的にも、社会的にも、それまで当たり前のようにあったモノがだんだんと奪われ、心身も衰えていく現実と向き合うのは、とてつもなくしんどい作業です。自分では肩書きや属性に身を委ねてきたつもりがなくとも、“リトル部長待遇さん”のようなものを、心の奥底に秘めた人は決して少なくありません。

実際、これまでインタビューした人の中には「肩書き、年収がよかった時代の名刺が捨てられない」ともらす役職定年者がいました。「そんな私はダメですかね?」と卑下する人もいました。

河合薫『50歳の壁』(MdN新書)
河合薫『50歳の壁』(MdN新書)

私は……ダメじゃないと思います。もちろん実際に使うのは、アウトです。しかし、戦利品を大切にすることに、なんら問題はありません。捨てられない名刺を、「机の奥にしまっておく」のは、人間臭さそのものです。机の中心においても、「心の中心=自己」におかなければまったく問題ありません。

そして、もし近い将来、自分の存在価値に不安を感じたり、路頭に迷いそうになったときには、「捨てられない名刺=がんばった自分」を見つめてください。そして、自分を褒めてあげてください。「ああ、私は結構がんばっていたんだな」と。その瞬間“リトル部長待遇さん”は消えます。きっと、「うん、まだがんばれる」と自信を取り戻すきっかけになるに違いありません。

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