過去の名刺は残しておくべきか、捨てるべきか。健康社会学者の河合薫さんは「過去の戦利品を手元に残しておくことは重要だ。しかし、自分を大きく見せようと過去にしがみつく人は周囲から嫌われるので注意してほしい」という――。

※本稿は、河合薫『50歳の壁』(MdN新書)の一部を再編集したものです。

名刺交換
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前職の名刺を配り歩く再雇用社員

会社員と切っても切れない関係にあるのが、「名刺」です。

名刺は中国から広まり、日本では江戸時代に訪問先が不在時に、和紙に名前を書いて、来たことを伝えるために使われていました。明治時代には上流階級の社交アイテムになり、戦後から身分証明として、会社員の間に急速に広まったとされています。

あの小さな紙切れを渡すだけで、「自分が何者か?」の証明になるのですから、考えた人は大したものです。

しかし、身分証明であるがゆえに、あの一枚に固執する会社員は少なくありません。

・親会社の人事部長だった人が、再雇用でうち(子会社)に来た初日に、親会社時代の名刺を社員全員に配っていた
・再雇用で来た人の歓迎会をやったときに、お店の人に前職の名刺を渡していた
・定年退職する半年くらい前から、総務に何回も名刺の発注をかけていた

などなど、名刺にまつわる珍エピソードはこれまでにもたくさん聞いてきました。

リモート会議が主流となったコロナ禍のもとでは、「上司が、『リモート会議だと名刺交換もできないから、うちの会社から私(部長)が出てることを向こうはわかってない』と不満げに言うので、上司だけ顔を出して、私たち部下はビデオオフで会議に参加することになった」と嘆く人もいました。

たかが名刺、されど名刺。会社員の名刺問題は、ちょっとだけ切なくて、それでいてかなりバカバカしい。本人が気づいていないだけに、面倒だったりもします。

“知名度の低い中小企業”(本人談)の課長、宮田さん(仮名)48歳がぼやく珍エピソードも、その一つです。